イタパのイタロウ
「悪ふざけはこのくらいにしとこうよ。結局、俺のスキル検証は継続なんだよね?」
「え~どうせスキル検証の特殊部隊を作るなら、ヒーローコスが良いだろ?それぞれのメンバーカラーも決まったんだし、予算をぶんどるのは得意だから任せてよ!」
「やだよ!ヒーローコスでダンジョンに行くとか、イタパじゃん!」
イタパとは痛いパーティーの略で、コスプレでダンジョンに行く人の事なんだよ。
イタパのメンバーをイタメンや、痛い野郎の略でイタロウなんて呼ぶ事もある。
特にスキルがアニメキャラの技に似てる人達がハマる沼だとか。
しかもドロップに聖なる闘士や龍玉に、セーラー服を来てお仕置きするキャラみたいな装備があるから、ダンジョンを作った神はオタクなんだとか言ってる人もいる。
あとダンジョンが出来たのが30年前のためか、やや古いキャラが多い。
俺なら装備の性能が良くてもそんなの着たくない。
「大丈夫。オレのセンスでカッコいいコスチュームにするから」
爽やかな笑顔で言われても嫌だよ!
「ちょっと早良君。装備は個人に合った物があるんだから、コスチュームは無理があるよ」
「ふぅ~。優太って本当に融通がきかないよね。コスチュームって言ってるけど、要するに制服なんだよ。ギルド職員だって制服あるでしょ?ギルド内のミーティング等で着る用にして、ダンジョンに入る時は着替えれば良いだろ」
「えーと、それなら良いか、な?」
サブマス丸め込まれてるよ!
「コーチャン、特殊部隊がギルド内で活動なんてほとんどしないでしょ?それに一々制服に着替えて、更にダンジョンで着替えるなんて無駄な事をしたくないよ」
「え~!せっかくトキとお揃いコーデをしたかったのに」
イケメンと同じ格好なんてしたら恥をかくのは俺だよ!
「そろそろ光成も悪ふざけは止めて、明日以降の打ち合わせをしておいた方が良いぞ」
「ちぇっ。蓮さんが言うなら仕方ないね。早速だけどトキは明日もギルドに来てくれるかな。蓮さん達はどちらでも構わないけど」
やっぱり悪ふざけだったのか。
冗談半分にシルバーとか呼び合うくらいなら付き合えるが、本気でヒーローコスとかするのは嫌過ぎるからね。
「放課後で良いなら大丈夫だよ」
「ワシは道場で稽古の予定があるからパスだな」
「俺は大丈夫だな。学校に迎えに行ってやるから、一緒にギルドに行くか」
「それなら朝も送って行ってよ。自転車を置いて行く事になるからさ」
「走って行けばいいだろ」
「え~」
「それも修行の内だと思え」
「わかったよ」
「後は、ガチャは昨日と同じ条件で使用するようにね。勝負はイレギュラーだけど使用に制限はつけない事にするよ。ただし、他にも何か新しい変化があれば、使用する前に必ず連絡して欲しい。オレと優太の連絡先を登録しておいてね」
仕事用とプライベート用の両方の連絡先を教えてくれたけど、これは絶対にサワラーギルドに知られてはいけないヤツだ。
「さっ、これで今日の仕事は終わったから、食事に行こうか」
食事って、またサブマスの家で?
コーチャンが部屋の隅にある電話機でどこかに連絡している。
「あ、心配しなくても優太の家じゃないから。オレの行きつけの店だよ」
コーチャンの行きつけの店か…高級店だとマナーがわからないんだけど。
「大丈夫。マナーとか気にしない店だからね」
相変わらずスキルでもあるのかってくらい心を読まれてる。
部屋の外では歴木さんが胸部装甲を揺らしながら見送ってくれた。
「僕はここで失礼します」
サブマスは来ないのか…
エレベーターの前で別れたサブマスの背中が、心なしか黄昏ている。
今日は色々あったし家族で話し合いがあるのかもね。
専用駐車場に降りると、ハイヤー仕様の黒塗り高級車が待っていた。
運転手がドアを開けてくれているのに恐縮しながら乗り込む。
早良さんモードのコーチャンが助手席で、俺達は接待されているって感じだ。
本当コーチャンは凄いね。
同じ顔のはずなのに、違う人にしか見えないとか怖いわ。
連れて来られたのは、地元で有名な焼肉店だった。
ちょっとお高いけど美味しいんだよね。
行きつけなんて言うから、もっと怪しい雰囲気の店とかを想像しちゃったよ。
俺達家族も何度か来たことがある店で、ホッとしたようなガッカリしたような気分。
「ふふ。次は期待されたような店にするよ」
だから心を読まないで!
「さっ、今日はギルド持ちだから沢山食べてもいいからね」
外だからスキルの話しはしなかったけど、色んな話しをして焼肉をモリモリ食べて楽しかったよ。
家までハイヤーが送ってくれるって事で、父さん達も飲んでたしね。
食事の後はコーチャンはギルドに戻って仕事だって事で、店の前で別れた。
忙しいのは俺がある意味元凶とも言えるから、罪悪感がちょっとだけ湧いた。