豚肉太郎と王国騎士団
次の日。俺たちは宿屋の前で待っていたエリザベートと合流した。
「おはようございます!」
「エリザベート様、おはようございます」
「お、おはようございます」
俺に続いてロゼも挨拶する。
「エリザベート様、今日はロゼも一緒に連れて行っていいですか?」
「ロゼさんも?」
エリザベートはロゼの方を見る。
「あの……」
ロゼも何か言いたげのようだが言葉が出てこない様子だった。
なんだろうこの雰囲気。すごく気まずいんだが。
「もちろんです! これからよろしくお願いしますね、ロゼさん」
エリザベートは笑顔で答える。
「はい! こちらこそ!」
「そうだ。ロゼさんのこともロゼって呼んでいいですか?」
俺のことはいきなり呼び捨てだったような…。なんでみんな俺のことは雑に扱うのだろう。
「はい! 大丈夫ですよ!」
ロゼとエリザベート様が仲良くなってくれるのはいいことだ。俺は腕組みをしてうんうんと満足気にうなずいた。
「ところで、今日はどこか行くあてはあるのですか?」
俺はエリザベート様に訊ねる。
「実は太郎にお願いがありまして」
「何でしょうか?」
「先日我々が捕まった、魔王軍の城についてです」
俺はアルバンに捕まり、捕らえられたことを思い出す。
「王国騎士団であの城を攻め落とそうとしています」
「それは、すごいですね」
「ですが、あの城にはカルラがいます」
確かにアルバンは倒したが、もう一人の幹部であるカルラとは戦闘することはなかった。
「あの城の攻略は簡単ではありません。そこで、太郎にカルラ撃破に手を貸してほしいのです」
「なるほど…」
「そんなのダメだよ!!」
横に居たロゼが大声を出す。
「そんな危険な作戦……」
「もちろん、太郎だけにカルラと戦わせるわけではないです」
エリザベートがフォローを入れる。
「騎士団総出で戦い、私や太郎はサポートに徹します」
「でも………」
俺は悩んでいた。ロゼが心配してくれる気持ちはよくわかる。それにアルバンを倒すことができたが、あの時の力は自分でもよくわからないものだった。
もう一度同じことができるかと言われると正直自信はない。
しかし、いずれ魔王を倒さなければならないのだ。
魔王軍幹部のカルラも倒さなければならないのは確かだろう。
「わかりました」
「豚肉くん!」
「大丈夫だ。一人で戦うわけじゃないし、魔王を倒すためには必要なことだと思う」
「………」
ロゼは何も言わずうつむいていた。
「ありがとうございます。では今日は、騎士団長と打ち合わせがあるのでそれに参加していただけますか」
俺とロゼはエリザベートに案内され、王都の中心にある大きな建物へとやってきた。
中に入ると多くの騎士たちが訓練をしていた。
「エリザベート様、ご無事でしたか!? 魔王軍に捕まっていたとか…」
一人の男がエリザベートに駆け寄り言った。かなりのイケメンだ。
「えぇ、何とか」
「よかった……」
男は心底安心しているようだった。
「エリザベート様、そちらの方は?」
「彼は私の命の恩人です」
「そうだったんですね。初めまして、私は騎士団団長のザリウス・バルツァーです。よろしくお願いします」
ザリウスと名乗った男性は、手を差し伸べ握手を求めてきた。
俺はその手を握り返す。
「俺は豚肉太郎です」
「豚肉殿。よろしく」
爽やかな男だ。俺の中の好感度ランキング上位に食い込む。
「ロゼです」
ロゼもぺこりと頭を下げる。
「ロゼさん、よろしく」
ザリウスは笑顔で答えた。
「ザリウス、予定してた打ち合わせですが彼らも一緒で構いませんか?」
「もちろん、問題ありません」
俺たちは会議用テーブルのある場所へ通された。そこにはすでに見知った顔があった。
僧侶のような格好をした、緑髪の女の子。アリアだ。
「やぁ、豚肉ちゃん」
「アリアさん!」
アリアが俺を見てニヤリと笑う。
「……知り合い?」
ロゼがむすっとした顔で俺を見つめる。
「あー、昨日王都に逃げ帰ったあと、回復してもらって」
「なんだい、他人行儀じゃないか豚肉ちゃん」
アリアが俺の背中をバシバシ叩く。
「ふーん。仲いいんだね」
ロゼがジト目で俺を見る。
「アリアとはすでに知り合いだったのか」
ザリウスが言う。
「アリアさんって騎士団だったんすか」
「まぁね」
ドヤ顔で再び俺の背中を叩き続ける。
「騎士団の回復の要ですよ」
「ザリウス隊長はすぐ傷だらけで帰ってくるからね」
「面目ない」
ザリウスは苦笑いを浮かべていた。
俺たちは席につき、エリザベートは話し始めた。
「さて、シャンディラ城攻略についてですが」
シャンディラ城とはカルラが城主として治めている魔王軍の城だ。つまり俺がこないだ捕まった城である。
「我々はカルラ討伐に専念します」
「はい。姫様には騎士団の精鋭を護衛につけます。もちろん私も」
「ザリウスは全体の指揮を取る必要があるのではないですか?」
「今回は副団長に任せます。彼なら安心です」
「わかりました」
エリザベートは納得しているようだ。
さらにエリザベートは続ける。
「実際のところ、騎士団と魔王軍の戦力差はどうでしょう?」
「魔王軍は数こそ多いですが個々の力はそれほど高くありません。我々が力を合わせれば十分に勝機はあるかと」
ザリウスが答える。
「ですので、やはりカルラの動きが重要かと。シャンディラ城が長年魔王軍の手にある理由はあの女にあります」
それほどの強さなのか、カルラは。
「以前騎士団がシャンディラ城を攻めたときは、カルラ一人の手によって壊滅しました」
「ザリウス隊長はカルラと戦ったことが?」
横から俺が聞く。
「いいえ。私は遠目から見ているだけでした。カルラは当時の騎士団の精鋭たちをたった一人で圧倒していました」
俺はそれを聞いて身震いする。そんなやつを相手にしなければならないのだ。
「ですが、今の私ならおそらく対抗できます」
ザリウスは自信ありげに言い、続ける。
「姫様と豚肉殿は私の後方でサポートをお願いします。カルラは私が必ず討ち取ります」
「頼りにしてますよ」
「はい、お任せください」
ザリウスは胸を張る。
「作戦開始は三日後の朝。日の出とともに進軍を開始します」
「了解いたしました」
エリザベートの言葉に、全員がうなずいた。
「では、解散としましょう」
俺とロゼは会議室を出ようとする。
「あれ、エリザベート様は?」
「アリアと少し話すことがありますので、先に行っててくれませんか?」
「あ、そうなんですね」
アリアを見るとニヤニヤしている。
「じゃあ、昼メシ食ってるんであとで合流しましょう」
「はい、またあとで」
俺たちは外に出て、食事できるところを探すことにした。
「ねぇ、豚肉くん! あそこなんてどう?」
ロゼが指さした先にはおしゃれな雰囲気のレストランがあった。
「いいんじゃないか? 行こうぜ」
「うん!」
ロゼが嬉しそうに駆けていく。
俺たちは店内に入り、店員に案内されてテーブルについた。
「何食べる?」
ロゼがメニューを開いて見せてくる。
「そうだな…。たまには海鮮料理でも食べようかな」
「オッケー」
俺たちは注文を決め、店員を呼び止めた。
「すみませーん」
「はい、ご注文を承ります」
「この『海の幸たっぷりのパエリア』っていうのを二つください」
「かしこまりました。少々お待ちください」
しばらくするとパエリアが運ばれてきた。
「おいしそ~!」
ロゼが目を輝かせながら言う。
「いただきまーす!」
「いっただっきまーす」
俺も手を合わせてからスプーンを手に取る。
「おいしいね、豚肉くん」
「ああ、うまい」
久しぶりに食べたけど、やっぱり魚介系の食べ物は最高に美味いなぁ。
「ところで豚肉くん。さっきの会議緊張したね」
「あー、確かにな」
エリザベートとザリウスはずっと真剣に話してたもんな。
「大丈夫かな。三日後の戦い」
「大丈夫だろ。カルラと戦うのはザリウス隊長で、俺たちはサポートなんだから」
「そうかな…」
「………そういえばお前、戦いについてくる気か?」
「え? 当たり前でしょ」
ロゼは当然のように言った。
「カルラは危険だぞ」
「わかってるよ。でも私だって戦えるんだから」
「それは知ってるが、魔王軍の幹部だ。それに相手は一人で騎士団を壊滅させるほどの実力がある。俺が言えたことじゃないが、かなり危険な任務になると思う」
「……いまさらそれはなしだよ。私は豚肉くんを手伝うって決めたんだから」
「ロゼ……」
ロゼはじっと俺を見つめている。
「わかったよ。でも、無理だけはするなよ」
「うん、ありがとう」
「よし、じゃあ腹いっぱい食おうぜ」
「やったー!」
その後、俺たちは満足するまで料理を食べ続けた。