豚肉太郎のはじめての出会い
俺の名前は豚肉太郎。トラックに轢かれて死んだはずが、この異世界に飛ばされてしまった。いわゆる異世界転生というやつだ。
俺のスキルは豚肉に纏わる攻撃をすることができる。よくわからんがそういうものらしい。
このスキルで俺は魔王を倒さないといけないらしい。無茶振りである。
何にせよまずは情報収集。転移してきた森の近くの街にまずは向かうことにした。
「ようこそ! 街へ!」
街の門番にそう言われて中に入る。
石畳の道にレンガの家々。中世ヨーロッパ風の街並みだ。
とりあえず宿をとってから冒険者ギルドに向かうことにする。
ギルドには様々な依頼書が張り出されている。
モンスター討伐の依頼や薬草採取など定番のものばかりだが、その中で一際目を引くものがあった。
『豚肉募集』
どうやら人手が足りないらしく、近隣の村で豚が大量に失踪しているようだ。
その依頼書を見ていると受付のお姉さんに声をかけられる。
「お兄ちゃんも依頼を受けに来たの?」
ピンク色の長い髪をした少女だった。歳は中学生くらいだろうか? なかなか可愛い子だな。ってお姉さんじゃないじゃねーか!まぁいいけど。
「ああ、何か仕事を探しているんだ」
「そうなんだ! じゃあ私と一緒に行こうよ!」
そういうとお姉……少女は俺の手を引いて歩き出した。
「えっ!? ちょっ……」
「私はロゼっていうの。よろしくね!」
そう言って笑う少女はとても可愛かった。
「あっ、そうだ。まだ名前を聞いてなかったよね? 教えてくれるかな?」
「名前は……豚肉太郎です」
つい本当の名前を言ってしまった。でもまあいいか。
「豚肉くんね! よろしく!」
悪口にしか聞こえない。まあ確かに豚だしな。
「ところで、何で受付の君が手伝ってくれるんだ?」
「だって、お客さんが来なくて暇なんだもん!」
いいのかそれで。あまりにも適当じゃないか?
「それに豚肉くん強いんでしょ? なら大丈夫だよ!」
「いや、弱いぞ」
ここは正直に言っておいたほうがいいだろう。俺は弱すぎるのだ。
「ほんとだ…私よりレベルが低い…」
そんなこと言われても困る。ちなみに俺のレベルは1だ。
「でもオークを倒してたし大丈夫だと思うんだけどなぁ……」
「何の話だ?俺は倒した覚えはないぞ」
「あれ? おかしいな。豚肉くんだと思ったのに」
俺に似てるやつが他にいるのか? まぁ、日本人なんてみんな同じ顔に見えるかもしれないが。
「まぁとりあえずクエストに行こうよ!」
ロゼが俺の手を引っ張る。柔らかな感触が伝わってくる。
こうして俺たちの冒険が始まった。
街を出てしばらく歩くと草原に出た。
「ここら辺にいると思うんだよねぇ」
「なんでわかるんだ?」
「だって、私が襲われたところだから」
さらっととんでもないことを言うロゼ。どうやら彼女は魔物に襲われたことがあるらしい。
いったい何が…?
「ん? あれじゃない?」
そう言って指差す先には巨大な猪がいた。
「よし! やるぞ!」
気合を入れて駆け出すが、あっさり吹っ飛ばされてしまう。
「ぎゃふぅ!!!」
地面に転がった俺は血反吐を吐き出しながら叫ぶ。
「無理ゲーだろこれぇ!!」
「ちょっと! しっかりしてよ豚肉くん!」
俺の叫び声に反応して猪が迫ってきた。このままでは踏み潰されてしまう。
「仕方がない! 奥義を使うしかないか!」
俺には切り札があった。それは『スキル』だ。
スキルを使えばこのピンチを切り抜けることができるはずだ。
「『スキル』発動!『豚足タックル』!」
すると体が光に包まれ、全身からオーラのようなものが出てきた。そしてそのまま猪に向かって突進していく。
ズドォン!!という音とともに吹き飛ぶ猪。その体は見事にバラバラになっていた。
「すごい!これがスキルの力なんだね!」
ロゼも目を輝かせていた。どうやら喜んでくれたようだ。
「そうだ! これは『豚足タックル』と言って、相手に強烈な体当たりを食らわせる技なんだ! 効果は抜群だぞ」
説明を聞いたロゼはなぜか固まってしまった。どうしたのだろうか?
「えーと、他にはどんな効果があるの?」
「他?『豚足アタック』とかかな?」
「……それって他の攻撃はできないの?」
「『豚足キック』ならできるぞ」
「…………」
また黙り込んでしまった。何かまずいことを言っただろうか?
「どうした?」
「な、なんでもないよ!とりあえずクエスト達成だね!帰ろうか」
明らかに何かを隠している様子だったが、追求しても教えてくれなさそうなので諦めることにした。
街に戻るとギルドへと報告に行く。
「お疲れ様です! 依頼は無事にクリアされましたよ!」
一緒に帰ってきたロゼが報告を受け、言った。っておい茶番か?
「じゃあ報酬の銀貨五枚ね!」
そう言ってロゼは俺にお金を渡した。
「おう、ありがとう」
「じゃあ私は帰るね! ばいばーい!」
そう言ってロゼは去っていった。なんだか嵐のような子だったな。
でも可愛い子だった。宿に戻った俺は部屋に入るとすぐにベッドに飛び込んだ。
「つかれた……」
肉体的な疲労よりも精神的にくるものがある。
やはり異世界に来るというのは大変なことだ。
だが、そんな苦労とは裏腹に、俺の心はとても晴れやかなものだった。
理由は明白。可愛い女の子と冒険ができたからだ。しかもあの子と二人っきりで。
「最高すぎるぜ!」
これからの生活を考えると胸が躍る。
しかし、俺はまだ知らなかった。
本当の地獄はこの先にあるということを……。