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ピルグリム・クリスタリス  作者: 徘徊猫
幽明の灯火 後編:双冠の王座
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誰かに見せる姿、誰にも見せない本性

ラル「久しぶりな気がしますね。あれ? うーん?

   けほっ、こほん。んー、口調が戻ったー」

 葉「……大丈夫?」

ラル「うん、久しぶりにあの口調になりましたわ。

   ……駄目だ、戻ってないみたい」

 葉「口調が素になるのを不調と捉えればいいのかな

   ……取り敢えず体調に顔つけてね?」

ラル「んー」

 交渉は嫌い、話し合いよりも脅す方が楽だから。それでも交渉役を買って出たのは、エリスや他の人達に任せるより僕の方が適しているから。座り心地のいい椅子に胡座をかいて、偉そうに振る舞ってやろう。

 「さて、領主さん。僕は長い話が嫌いでね、早めに本題に入ってくれると有難いんだけど、いいかな?」

 間に合わせだろうが、それなりに豪華な部屋の中では僕と領主……そして、その背後にいる領主の護衛さんたちが僕を睨んでいた。おどおどとした様子の領主は頷いたので、僕はにいっと笑って見せる。


 「僕たちの要求は三つ。一つ目は領民に課した税の減免、二つ目は僕たちがこの周辺に駐屯することの容認、三つ目は魔王の情報。これだけだよ」

 「何を言っているんだ、貴様はッ! それでどうやってこの領地を維持するというのだ!!」

 領主の背後にいる護衛が顔を真っ赤にして、僕に唾を飛ばしてくる。…………ああ、こうなるか。面倒臭い。因みに、領主は慌てて部下を宥めようとしていた。


 「知らないよ、貴方たちのことなんて。勝手に苦心していればいいんじゃない? 僕たちの目的はこの国を平定すること、でも国がなくなれば平定する必要もないね。魔王の一族はもう王座に座る奴だけだから、そいつの首を取るだけで良いんだよ」

 王様がいなくなったとしても、最終的には力のある誰かが引き継いで国は滅びないかもしれない。そこら辺のことはよく分からない。でも、上が変われば、それはもう元の国とは違うものだろう。

 「…………それと、そんなに殺気立つのはいけないな。僕は平和に交渉しに来たのに、君の一言が僕の気分を変えるかもしれない。ああ、君たちは君たちの団長に守られるような不甲斐ない奴らなんだね。僕らの馬鹿も大概だけど、騎士団長も君らが傷つかないように前に出たというのに————君らはその意志を汚すんだ」

 他人事だから怒りもなく、心に波も立たない。強いて言うなら、彼らを軽蔑している。あの馬鹿を許すつもりはないが、それでもその行動の裏にあった優しさは尊重したい。勿論、どちらの団長も率いる側としては失格だと思うが。


 「ちょっと待って欲しいニモ! ……騎士団員の諸君は解散して各々自室に戻るニモ。私も情けなかった、君たちを心の支えとしてしまった」

 「ですが、御身がっ!」

 「……この部屋から退出せよ。これは命令である」

 領主は有無を言わさず護衛たちを部屋から出させた。護衛たちは俯き、唇を噛み締めて退出していった。


 「この非礼は私が詫びるニモ。私の部下が貴殿を煩わせてしまい済まない」

 …………意外とこの領主は領主としての誇りを持っているらしい。ニモニモはうざったいが、僕が目の前にいても堂々としている。

 「別に構わないよ、まあケジメは後で付けてもらうからね」

 卑しい貴族ではなかったが、今まで彼にしてきたことを謝るつもりはない。僕は交渉には長けていない、だからどんな手を使ってでも有利に進めなければならない。

 魔王という大物を獲るには、情報収集と万全な状態で挑まなければならない。僕はここで一歩も譲るつもりはない。


 ◇


 「————ふむ、まあそれで良いよ。後は魔王について教えて欲しい」

 何とか譲歩できない所は死守して、最後の話題に入った。

 「……君は魔王様のことをどう思ってるニモ?」

 「狂いに狂った暴虐の王様だと思ってるよ。権力争いだから、で済ませられる所業じゃないよね。肉親を容赦なく始末して、果ては前王の奥さんを国民の前で公開処刑。わざわざ火刑を選択するなんて、悪趣味にも程があるよね」

 弓を持ち始めた狩人が仕留める快楽に目覚めて、本来の目的を忘れてしまうように。権力であっても、狂わせる要因なのかもしれない。


 「そういう一面は彼が王になってからニモ。前王様が偉大だったのも、余計魔王様を焦らせた。…………君が知りたいだろう彼の力は私も知らないニモ。彼は秘密を抱える性格だった」

 今までにも話を聞いてきた。魔王のことを表面的に知っている者が多いが、その胸中は誰も知らない。当たり前だろう、身近な誰かですら知らない一面を持っているのだから。魔王の場合はまるで自分を隠すような行動が理解者すらも消したのだろう。……魔王の力を知れなかったのは残念だが、予想もしていた。

 「じゃあ、次に魔王国を放浪している謎の存在について知らない? 他にも、何かの異変についてとか」

 むしろ、こちらの方が大事。不穏分子は出来るだけ排除しておきたい。そうでなくても、どんな存在か知れるだけで対策は打てる。……それを実行できるかが一番の問題だが。


 「私はその者について一切の情報を持ってないニモ。ただ最近、魔王城に複数の動く影があるとは騎士団の偵察で確認している。何でも、それは死んだ魔族の成れの果てで今も彷徨っているだとか……魔王様とは数年前から連絡を取ってないニモ。その時から……噂はあった気がするニモ」

 くだらない噂だが、それも積もれば真実味を帯びてくる。ここに来るまでにも、そんな噂が至る所であった。…………魔王城では一体何が起きているのだろうか。それが分からないのが一番恐ろしい。


 「ふうん、まあいいわ。ある程度話はまとまったし、今日はこの辺にしようか」

 少し見栄を張って、椅子から立ち上がる。心に抱えた不安の種を隠して、僕は今も雷鳴を響かせる魔王城を見た。

 ……どうもお久しぶりの作者です。

 どんな展開にするか、悩んだ末にこうなりました。


 つまり、いつもの二倍くらい。書きたいことがあり過ぎた。

 色々と活動報告したいけれど、今回はここまでー。

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