優しい風に包まれて
水「ふっ、ふん、ふふん。
お風呂は良いなぁ♪ 気持ちいいなぁ♫」
「…………はむっ、むぐむぐ……美味しい」
目の前の勇者様も今だけは歳よりも幼いように感じる。この勇者様はどうやら僕に食べさせてご満悦らしい。
「あのさ、恥ずかしいとは思わないの? いや、あらゆる所が骨折してるだろうから無理されると困るけど、開き直るのもどうかと思うよ」
あの戦いから二日程度経ち、今は昼の光が天幕まで漏れてくる。この勇者様は戦いで肋骨が数本、足の骨がポッキリと折れてしまった。人は魔族と違い、傷が塞がるのにも時間がかかると言うのに、全くこの馬鹿は一体何を考えているのか。
「む? そうかな……果物、ありがとうね」
しょんぼりと、優しく僕に微笑むエリスに、つい怒りが爆発する。
「あー、もうっ!! そうじゃないよ、目の前に魔王城があるんだよ?! もっと先のことも、周りのことも考えて行動しなよ。エリスの下にいる彼らはエリスだから着いて来たんだ。エリスは指揮官なのよ! 暗闇を照らす灯火のように、僕たちを導いてくねっ!! ……だから、例え前線で幾ら死者が出ようとも、最後まで皆を導いて」
思わずエリスの膝に顔を伏せたのは、顔が赤くなってしまったからだ。はぁ、こんなの僕じゃないのにな。彼女の側にいるのは暖かいけれど、僕が本当にいた方が良いのはもっと仄暗く、冷たい場所のはずなのに。
そっと、僕の頭に手が置かれる。エリスは躊躇いがちに、細々とした声で呟いた。
「……ごめんね、心配させて。でも、私はきっと無茶をしてしまう。だから、…………私を支えてくれる?」
「本当馬鹿っ! っぅ、もう本当に……。病人はそこで休んでて、僕は交渉に行ってくるから」
エリスの腕から抜け出して、後ろを振り返らずに天幕の出口まで歩く。
「いってらっしゃい」
「……いってきます」
後ろから吹いた風は心地良かった。
お風呂にどっぷりと浸かった後の牛乳は最高っ!
フルーツ牛乳派だったけど、稀にコーヒー牛乳も飲んでいた
そう、牛乳のシンプルさを味わうまでは。




