たとえどんな手を使ってでも
ラル「手段とは、目的地まで行く為に車や船、
足を使う程度の差しかない。
結果が伴えばどれも変わらない。
ただ苦楽に差があるだけなのだから。
但し、自分の心が汚れた時に
貴方の行く道を汚れたものにすることは
心に留めておきたいですね」
「…………全く、無茶するんだから」
二つの影が平原に倒れる姿から視線を逸らして、大きくため息を吐き、構えていた弓を降ろした。
「ぎょもっ?! ぎょもぅッ?!?!」
さっきからのたうち回る標的……領主ををつい冷めた目で見てしまう。なんだこの奇怪な鳴き声で喚く生き物は。猿轡で口を塞いでるとは言え、さっきからうるさい。
「…………はいはい、分かりました。それは取りますから、さっさと降伏して下さい」
丸っこい体型は愛嬌があるといえるかもしれないが、顔から色んな汁が噴き出している。いや、結果的には僕がさせたのだけど……例え見た目が良かろうとも、この必死過ぎる顔を見て引かない自信はないな。
「ぷへっ————お前何様のつもりニモッ! ふげっ?!」
折角、うへぇと思いながら猿轡を外して上げたのにまだ抵抗する気力があるらしい。後ニモって語尾はなんだ? 出来るだけ時間を取りたくないので、頭を踏んづけて催促する。
「いい加減にしてくれませんか? 僕は早くあの場に行きたいんですよ。さもないと貴方が折れるまで私は如何なる非道も辞さない覚悟があります。例えば————あちら部屋は貴方の奥さんの部屋でしたね。アレを見たのなら分かるでしょうが、いつでも私は狙えますよ」
見やすいように私は弓を弾き、鐘を撃ち抜いた時と同じように矢が目の前の壁を崩した。私は二本目の矢を引いた。
「ひっ?!?!」
「ひゅー、風邪通しが良くなりましたね。因みにあの部屋に奥さんが居ないなどという希望を持たないで下さいね。お分かりの通り、貴方が如何に喚こうとも、如何に私が音を立てようともこの館で起きているのは私と貴方だけ。さて、話すのも疲れましたね。…………三、二、いっ——」
「————分かった! 分かったからやめろッ!!」
その言葉を聞き、途中で弓を明後日の方向に撃った。何処か遠くでドカンと音が響いた。
「さて、戦いを終わらせましょうか」
◇
堂々と城門の裏から姿を現し、城壁を守っていた騎士たちを降伏させた。これで暫くの安全は確保できただろう。あの領主が名ばかりの、特に人望もない領主であったのならあれほどスムーズに進まなかっただろう。
そんなことより、私は地面に倒れ伏して、すやすやと眠る勇者様を小突き叩くなる。態々表に出る必要などなかったのに、自身の身を危険に晒したこの子にはどんな罰を与えるべきか。そんな思考に移ってしまうのも仕方ないだろう。
本当なら、私が領主の館を奇襲する為の陽動として時間稼ぎをしてくれればいいのだから。そんな危なっかしい所が私を惹きつけたのかもしれないが。ただ今はこの子も寝ているのだ、少しくらい本心を晒しても聞こえないだろうか?
「……エリスのお陰で怪我一つないよ。…………感謝はしている」
本人に聞かれてないと分かっていても、何処かむず痒い。背に乗せて、その軽い体を天幕まで運ぶ。くすっ、と笑い声が聞こえたのはきっと気のせいだろう。
今回はリラ側の話でした。
爆発する矢……それは矢の意味があるのか?
少なくとも狩人には……ああ、
荒くれ者を追い払う為ですね、はい。




