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ピルグリム・クリスタリス  作者: 徘徊猫
幽明の灯火 後編:双冠の王座
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一時の休息であろうとも

 水「ふはぁっ、極楽極楽。お風呂に入れるだけで最高やな」

 影「水は本当に何処に行っても楽しめそうだよね。

   ……ふぅ、私も好きだけどね」

 水「……おっ? ふふんっ、影こっち向いてな」

 影「ちょ、不意打ちは卑怯……と見せかけて、それ!」

 水「ふぁっ?! 鼻に水がっ、うぅ結局負けるんか」

 影「熟練の手捌きから繰り出された

   水鉄砲に死角はない!」

 勇者エリスは魔王が住む魔王城近郊の村にいた。魔王城を遠目にも捉えることが出来るが、残念ながら勇者たちが直線的に歩いても魔王城には入れない。

 今も崖の上に聳え立つ城に雷光が走り、ぴしゃりと城の塔を貫くがその程度では揺らぐことはなかった。崖を登ろうとすれば雷に打たれるか、矢で蜂の巣にされるやもしれない。つまり、城内に攻め込むにはその下にある城下町から城に上がっていく他に道はないのだ。

 玉座に座る魔王は地を這う人々を嘲笑っているのかもしれない。


 ◇


 その魔王城を唇を噛んで睨んだエリスは、すぐに頭を切り替えて日課である祈りを彼女の主に捧げた。 エリスは地べたにぺたりと座り込み、手を合わせて祈る。特に方角や、場所が重要な訳ではないが彼女は魔王城の方向に祈るのを嫌い、反対の方向に祈りを捧げていた。

 「————様、どうか私たちを見守ってください」


 情の女神は果たして小さな少女に気付くのだろうか、例え人々に勇者と崇めらたとしても神にとっては些事である故に。一筋の汗が頬を伝い、正中線をなぞる様に流れていったとしても、少女は無心に祈りを捧げる。ただ彼女の場合、神が見ていなくともその真摯な姿に部下たちは惹きつけられたのだろう。彼女の頭に手拭いが一つ、ふぁさっと掛けられる。

 「いつまでやっているんですか、お湯は少しずつなくなっていきますよ。水を温める人を起こすのは気が引けるでしょ」

 「もうそんな時間……分かった、リラはもう洗ったの?」

 膝に付いた砂を払い、立ち上がったエリスは汗を手拭いで軽く拭いた。


 「いえ、まだですよ。何処ぞの勇者様が身嗜みに気を遣わないので、しっかりお風呂に入っているのか私が監視しないといけませんから」

 わざとらしく大きな声で咎めるリラに、エリスは目を逸らす。

 「…………お風呂って、嫌い」

 「本当に猫みたいな人ですよね、洗ってあげますからさっさと入りなさい。僕だって、早く汗を流したいんです」

 首根っこを摘まれた勇者は入浴できる浴槽まで付いた天幕に放り込まれる。リラは天幕に入る前に立ち止まり、一言。


 「随分と今日は視線が多いですが、覗いたら分かってますよね?」

 リラは振り返らずに背で語り、周囲で見守っていた視線を散らせた。


 ◇


 石鹸によって泡立つ蒼髪の髪、その下に付いた二つの目は泡が入らないよう半分ほど開き、何処か不服そうに口の端を下げていた。上からざっぶんと掛けられたあと、髪から水気を取る為に頭を左右に震わせた。

 「何で勇者様がお風呂苦手何ですか」

 後ろから掛けられた呆れた声に、エリスは依然として同じ顔のまま答える。

 「……お風呂に入る時間が勿体無く感じるから。いつからそう思ったのかな、昔は嫌いではなかったと思うよ」

 「それで人生楽しい? 僕だったらそこまで真面目に生きようとは思わないな。僕と会った頃は食事すらこだわってなかったみたいだし」

 腕をぴらーんと上げて、シミ一つない優美な肉体をエリスは無抵抗に洗われている。リラは露になった脇から足の付け根まで隅々洗っていく。人というより、ペットを洗うような洗い方だ。

 「私は主に人生を捧げるくらいは当然のことだと思ってる。他の生き方もあるのは知ってるけど、私は使命を守って生きていくと決めた。その生き方が一番だと今でも思うから。でも、リラがいてくれるから今は楽しいよ。聖都では私に対等な関係で話しかけてくれる存在がいなくなったから」

 少し寂しげな表情をしたエリスに、リラは再度ぱしゃんと水を掛けた。


 影に沈む大地に、少女たちの笑い声が響いた。

 作者は大きなお風呂が好きです。背を伸伸ばして、ゆっくり浸かりたい。

 お風呂も、色んな種類があってサウナまでが一流れかな?

 冷水に入る自信が未だにないのだけれどね。

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