嘘吐きは今日も微笑む
葉「……おじさんに焦点が当たっても、
格好良くなければ面白くないかな?」
水「また何を言うとるん?
まあ、物語なら見た目か信念が良ければ面白いとは
思うけど……受けは良くないかもしれん」
葉「世の理かな、嫌いではないけど
やっぱり少年少女の方が成長する様子が
一度通り過ぎた人たちに共感しやすく、
輝いて見えるのかもね」
聖都の中心に聳え立つ城内の書斎、主教が書類に目を通していた所で外から扉を叩く音が響いた。
「主教様、私です。お時間宜しいでしょうか?」
「エリス君か、入ってくれ」
扉から現れた蒼髪の少女は先程までの演説と異なり、表情に乏しいようだ。主教は笑みを貼り付けて、エリスを招き入れる。
「今回の演説は如何だったでしょうか、私は皆に気持ちを伝えられたでしょうか」
口の端ををくいっ、と下げている様子から彼女もあの時は緊張していたのだろうか。
「君の真っ直ぐな姿勢は私も評価する所だ。その真剣さが伝わらないなどあり得ないだろう。少なくとも、私よりは民衆に響く演説だったと思うぞ」
「それなら良かったのですが。ところで主教様、主教様は魔族の内乱を治めるつもりだったのですか?」
主教は手に持っていた書類を置いて、目線をエリスの方に向ける。
「……乱れたあの国をそのままにはして置けない。そのままにして置けば、火種がこちらにまで広がるかもしれん」
両手を顎に当て、そう呟く主教をエリスは咎めるように机にぱんっ、と手を付いた。
「主教様、主の教えを忘れたのですか。道端で困った人がいたら手を差し伸べる。自らのことだけを考えず、誰かの助けとなることを喜びとするのが私たちではないですか」
主教はエリスを真っ直ぐ見たあと、にやりと笑った。
「…………そうだな。だが、パラディス王国の民を救済する準備にはまだ時間がかかる。その時まで君には力を付けてもらいたい。優秀な君だ、人類を導く勇者としての成長を期待している」
「はい、そうなれるよう身を尽くします。そうすれば、聖王様のようになれるでしょうか」
少し口が緩むエリスに主教は険悪な顔つきで忠告した。
「アイツのようになるな。理想を押し付け、勝手に去るような輩にはな。いいか、理想は自分で叶えるのだ。それまでの道筋は私や、これからお前について行くであろう仲間が開いてくれる。お前以外が、お前の理想を叶えられると思うなよ。……少し感情的になり過ぎたな、もう下がれ。今日はもう疲れただろう」
一息ついたところで表情が和らぎ、エリスに何も言わせず主教は部屋の外に出した。
◇
「私もまだ未熟か」
つい熱くなってしまうのは、昔からの悪い癖だ。余計なことまで思い出しかけた思考を振り切り、書類作業に戻る。
(……ここまで来た。各都市を手放す選択は痛手だったが、そのお陰で商人たちからの金を蓄えることが出来た。魔族の争いに仲介し、鎮圧さえ出来れば地位は暫く安泰だろう。王が変われば国も変わってしまう彼の国の干渉を無視して、我らが国も独自の発展を遂げることでやっとあの日描いた理想が成就する)
長い道のり、今までは広い道であったのが少しずつ狭まり、私だけしか通れなくなった。最後に禍根を摘むことができれば、もう何も恐れることはない。
(私は善人ではない。何せ善人を利用しているのだからな)
思わず口から笑いが漏れてしまう。下卑た笑いと呼ばれようとも、その笑いは止まることはない。
前半終わり!
長かった、後半戦少し考える時間欲しかった部分もあったけれど、それよりも話しておきたい情報が多かった。
花々は狂い咲いた、花々はその事を責めず向き合うのみ。
さて、今回の題名が指す嘘吐きは一体誰でしょうね。