流儀を如何なる為に見に纏う
ラル「次はー、どうしようかー。
喋り方は何でも良いけれど、
いつもと違う中で誰か良さそうなのあったかな?
まあ、何でも良いのですが、口調を整えないと。
今みたいな感じで混ざっちゃうからなー」
ボロの人は雑記帳を捲りながら、その物語を語り始めた。
「アルメアは王族の血筋だが、王位を継承するほどの権力はなかった。彼女を支持していたのは彼女の人柄を知っている少数の国民と物好きの貴族のみ。また彼女が王位に執着してない事もあっただろうが、やはり性別による部分も大きかった。女性の下に付くことの抵抗感は身分が上がるほど高まるのかもしれない。それは偏見でもあるが、彼らにとっては上に立つ者の誇りだったのだろう。私がその考えを受け入れる事はないが、それが彼らの見ていた世界であり、彼らが生きることの出来た居場所出会ったのだと、今では分かる」
「誇りだとか、偏見を言葉で装ってるだけじゃないの?」
他人を見下すことが良い事とは思えない。それを取り繕うのは余計惨めなことではないのか。
「いや、私も後から気づいたことだが……彼らは自分に課した義務を果たそうとしているだけなのだ。高貴な地に生まれた故に、傲慢にも見える振る舞いをする。ノブレス・オブリージュと呼ぶものだな、彼らの行動から秩序が生まれ、それに領民たちが従い、安定した社会になる。ただ社会において女性が認められない理由は少し異なると思うが」
安定した社会を生み出すために、貴族も身分という枷を嵌めて、それに見合った行動しているという事らしい。でも、最後少し濁したような?
「貴方はその理由を何だと思っているのですか?」
お母さんが追求をすると、ボロの人は少し間を置いてから答えた。
「私の意見でないのだが…………格好を付けたかったのではないのだろうか。彼らは女性の前に立ち、リードを率先して行うことを尊び、憧れる。その憧れを押し付けるから、力のあった彼らが秩序の中に組み込んだものだと思う。これはあくまで私の意見であり、彼らの名誉を傷つけるつもりもない」
何とも言えない雰囲気になる。もしそれが一説であるのなら、馬鹿なのではないかと。馬鹿というと失礼だけれど、合理的な考えではないのだから。
「…………取り敢えず、その社会の常識をどうやって覆したの?」
この雰囲気をどうにかしようと話題を変える。
「彼女が王となる方法は一つ。王座を簒奪することだけ。王都を占拠し、抵抗される前に全てを終えた」
思った以上にすんなりと物語は終わった。
「……それだけ?」
「この雑記帳は細かなことまで書けない。速さを求められるものだったから、かかる時間も少なかったからな」
少し残念に思いつつも、お冷で少し乾いた喉を潤す。ボロの人のスープからは既に湯気が消えていた。
雑記帳、つまりメモ帳を読み返して意味がわかることのほうが少ない気がする。
実際は王都を占拠するための知略とかあるだろうが、要するに手薄になるように策を巡らすということなので。