雑記に残された思い出
葉「……すぅ、すぅ」
ラル「あらー、悪戯のチャンスかなー?
……顔に置かれた紙は何だろー?」
---------two time later?----------
葉「……むぐっ、ラルいたのね」
ラル「ええ、ふっふ……少し前からね」
葉「どうしたの? 口調が素に戻ってるよ?
もしかして私の顔に悪戯した?」
ラル「ううんっ…日当たりが良かったんだろう。
綺麗に印刷できてるよ……ふふっ」
魔王国の正式名称はパラディス王国、現国王の名前は知らない。そもそも女将さんの店がある街で、果たして何人が知っているだろうか。難民が幾ら街に来たとしても、彼らにとっては王よりも日の暮らしの方が大事なのだから。
「あの頃は騒乱の時代だった。彼らは現状の地位、神の下に着くという事に不満を抱いていた。
当時は彼らと契約を結ぶ条件を詰めていてな、秩序と呼べるものもなかった。神が鬼を受け入れる理由は邪神対策のためで、鬼は留まれる土地を探していた。一部の例外を除いて、神は作られた世界に生身で入ることが出来ない。入るためには君のような依代が必要なんだ。
ただ依代では神力を発揮しきれず、また神は邪神と相性が悪い。故に邪神に対して相性の良い鬼と契約をする」
あの頃とは、一体どのくらい昔の話だろうか。少なくとも私が知っている範囲の外であるとは分かる。先代の魔王より更に前となると、百年や二百年では利かない気がする。
「結ばれた直後では問題は少なかったが、時を経るにつれて問題は表面化してくる。結んだ当事者からしたら納得出来るが、その次世代が現状に満足するとは限らない。誰であったとしても、今より少しでも幸福を得ようとする感覚は普遍のものであろうからな。例え愚かと言われようとも、そう簡単に止まれるものではなかったのだろう。しかし、最終的に実行まで移ることはなかった」
「どうして?」
頭の中で主教の演説が思い起こされる。その流れが意図的に生み出されたものであっても、民衆の力が合わさると民衆は留まることを出来ない。私があの熱に乗れなかったのは少し距離があったことと、私に流れる血が人のものではなかったから。そんな中で抑止の力が働くとは思えない。
「それは、彼女が…………すまない。かなり昔のことだから、記憶を引っ張り出すのに手間取ってね。少し雑記帳を見させてもらおう」
ぼろぼろの外套の中から、黄ばみと飲み物が溢れたような汚れが染み付いた雑記帳を取り出した。
「…………確かここら辺に書いたはずなのだが」
ぺらぺらと捲れていく雑記帳を盗み見したが、掠れて読み取れない。
「その彼女は次の魔王になったんですか?」
お母さんの言葉に、ボロの人はそちらを向いたようだった。
「ああ、彼女はそれから暫くの間女王として君臨した。その後に交流もあり…………しかし、今では名前すら碌に思い出せない。長い付き合いだったはずなのに、彼女との出会いの記憶すら風化してしまった」
雑記帳は開いたまま、ボロの人は遠くを見ている。
「もしかして、彼女の名前はアルメア・クシャトリアではないですか?」
何処か心当たりがある様子のお母さんが予想外の言葉を放つ。
「そうだ! しかし、何故君がその名前を知っている?」
ボロの人は机に身を乗り出していた。その言葉には驚きと、何処か期待を込めながら。
「実は昔の話について調べていて、目を引く本の中で唯一彼女についての記述があったので」
「…………そうか、あの本から知ったのか」
先程の様子は鳴りを潜め、注がれていた水を勢い良く飲み干す。
「私たちは彼女——アルメアを担ぎ上げ、争いの種を摘んだ」
すみません、前回の話の最後を少し変えました。
王朝名がクシャトリアです。ヤではありません、アです。
前書きについて
以前作者が経験したことをネタにした。
太陽の光が上手い具合に上にある雑誌の一部とか、紙とか
のインクに当たって刷られることがある。
作者の腕も綺麗にプリントされました。