そんな準備で大丈夫なのか?
でぇ丈夫だ……たぶん。
支度がこの回で終わる訳ないから。
カシャン、と音を立てて、武具が詰められた箱が置かれた。その箱は一個、二個…………少女はその様子を手で覆う。
「使い易いのはナイフだと思うが……嬢ちゃんはどんな戦い方を教わったんだ?」
伽藍は等間隔に武具を並べながら、尋ねる。
「……えっ? ごめん、私何が出来るか分からない」
伽藍は暫しの沈黙の後、ぽんと手を打った。
「すまん、すまん! 忘れてたぜ、今は記憶がないんだったな。じゃあ、お前も分からないか。じゃあ、一つずつ試していこう」
「が、頑張るっ……」
口をきゅっと結びながらも、少女の拳は硬く握られている。気が遠くなるような時間を乗り越える為に。
◇
風を切る音が棒を振るう度に鳴る。少女はその流れに従いながらも、力を振り絞る一振り。まるで少女に寄り添うかのように、棍はともに踊る。
最後の一振りが終わり、汗がぽたりと地面に滴り落ちたところで少女は息を吐き、気を緩めた。
「ふぅ、はぁはぁ……」
気を張ったためか、体が酸素を求めて荒くなった息を少しずつ落ち着かせている。
「嬢ちゃん、水はいるか?」
舞踊を見ていた伽藍が木のカップを渡す。少女は受け取り、勢いよく飲み干した。
「……んぐっ。ありがと、それでどうだった?」
「嬢ちゃんは割と多芸だな。刀剣類は言わずもがな、槍は苦手なようだが棒術は使えるしな。ナイフや、体術もそれなりに使えると思うぞ。ただ戦うのなら獲物は大きいか、上手く弱点を突くぐらいじゃないと厳しそうだ。うーむ、結局は刀を使う方が良いか」
少女は疲れて項垂れたあと、そもそもの話を聞いた。
「そういえば、戦うって言ったけど……どんな奴なの?」
「堕落した邪神……の使徒だな。見た目はとにかく悍ましい、醜悪な化け物だ。勿論、大小様々いるが力は総じて強く、並の力では絶命させるのにも一苦労。ちょっと待ってな」
武器を振るくらいのスペースのある部屋から出て、伽藍は掌に収まらないくらいの牙を持って来た。
「この牙なんだが、とにかく硬ぇんだよな。力をしっかり掛けられれば砕けないこともないが、それには技量がいる。首も硬いから刀を扱う時は注意してくれ」
伽藍から牙を手渡されたものを受け取り、こんこんと叩くと良い音が鳴る。
「厄介そう……これ本当に私でも倒せるの?」
「流石にもう大半は殲滅されてるから、残ってるのは数が多く、これ程手強くない奴だな」
少女はきゅっ、と自身の袖を強く掴む。それを見ていた伽藍は少女の背をバシバシ叩き、一言。
「安心しろって、本当に危険な目に遭いそうになったら爺さんが助けてくれるから。爺さんは認めたがらないが、良い奴だからな。はっはは!」
豪快に笑う伽藍に少女は苦笑を浮かべるが先程より手の力は弱まっていた。
個人的に槍術より棍術の方が動きが大きい気がする。
槍はスタイリッシュに、レンジ(射程範囲)を確保する守りのイメージ。
ナイフ……どんな子でしたかね。その子は闇に消えた。
何故なら、ナイフだけが主体なイメージがないから。
体術も付いてくるよね、ナイフ。
何気に準備回が多いな、この作者は。