過ぎた苦しみはどこに消えるのか
影「ご飯出来たよ、運ぶの手伝って」
水「へーい、今日も味噌汁の美味しそうな香りやね!」
影「……何故頭に乗せるという無理をする」
水「別にへーき、へー…熱っ!?」
影「はぁ、氷嚢を後で渡すから冷やしときなよ。
かかったのが手に持った方で良かったね」
香草で煮込まれたお肉に、じっくり燻された魚、玉ねぎや挽肉を詰めた小麦の生地から油がスープに染み出している。
「「いただきます」」
私たちは手を合わせたあと、互いの料理を食べ比べた。女将さんの店や、私たちの家でいつも食べていた料理とは違って、あの屋敷やこの店で食べる料理は新鮮だった。勿論、普段食べている料理も美味しいから、私が言いたいのは手に入れられる食べ物が違えば、食べられる食事も違うというだけ。
「君たちは美味しそうに食べるな」
ボロの人が手にあったスプーンを目の前にあるスープの皿に置いた。
「……それ褒め言葉のつもり? 逆に貴方は余り食べてないみたいみたいだけど、胃もたれ?」
呆れた気持ちでボロの人を見てしまう。その言葉を素直に喜ぶ人もいるだろうが、人によっては食いしん坊と捉える人もいるから。別にただ言われるだけなら構わないけれど、ボロの人がスプーンを置いたことで余計際立たされている気がする。
「胃もたれか、そうかも知れないな」
「へ?」
冗談のつもりだったのに本当だったの?
スープを見てみると生地が解されて、具材がスープに広がっている。
「別に病気ではない。ただ本当に久しぶりの食事だったのでな、あまり胃が受け付けてないのだろう」
「…………無理はしないでください。もしかして食事を躊躇していた理由にそれもあったんですか?」
お母さんがボロの人の顔色を伺うように覗き込む。依然として生憎と姿を確認できないままだが。
「いや、私は少し浮ついていたかも知れないな。君たちと話せたことも、この店で食べたことも。気にするな、遅くとも少しずつなら食べられる」
表情は見えないまま、ただ言い終えた後に笑った気がした。
◇
ボロの人は少しずつ食べ進め、ひとかけらの生地と浅くなったスープが残っている。
「……少し休憩をするとして、今聞きたいことは何かあるか?」
度々皿にスプーンを置き、こちらの様子を見守っているのだが、もう私たちは食べ終えているので気を遣ったようだった。
「私が聞きたいことは……もし良ければ貴方が今まで旅してきた事について教えてくれませんか」
最初は断ろうとしたらしいお母さんは、途中からボロの人の意を汲んだらしい。
「旅についてか、面白いことは……あるな。かなり昔のことだから、少し朧げだが話そうか」
少し顎に手を当てて悩んだ後、良い話を見つけたのか少し乗り気のようだ。
「これは私がクシャトリアという王朝、今では魔王国と呼ばれる場所に訪れた時の話だ」
あれ? 何で食事の話を書いて……
ここが正念場だというのに、何故後編に移る前に
延長戦を自ら申し込んでいるのか。
さあ、読者の皆様方。
魔王国という俗称の仮面を剥ぐときが来た!




