コインを弾く音がする
コインが金属質な音を立てて、宙を舞い葉の手に落ちる。
葉「ほい、表か裏どっちかな?」
水「表や!」
影「裏?」
ラル「どっちかー、だねー」
「どれも美味しそう! お姉ちゃんはどれを食べるの?」
「……そうだね、この料理をリリスと分けようか」
お母さんが注文するのは豚肉を煮込んだ料理だ。なら、私は魚の料理にしよう。
「じゃあ、私はこっちにするよ。店員さん、注文良いですか?」
ウエイトレスの人を呼び止めて、注文をする。他所の店でするのは慣れてないが、チップを危うげなく渡すことができた。
ボロの人がその様子を目で追っていたので、つい気になってしまう。
「どうしたの?」
「いや、気にするな……私のことは構わなくていい」
今までとは違い、ボロの人は先程からお冷をよく飲んでいる。その怪しい様子の原因はボロの人の服を見ると何となく察することができた。
「もしかしてお金持ってないの?」
「…………金銭は身に付けてない。だが、私の胃は既に満たされているから食べなくても問題はない」
つい疑いの目でボロの人を見てしまうのは仕方がないことだ。お腹が満たされたということが嘘でなくても、その中の大半は水じゃないのかと聞きたくなる。
「よければ私が出しましょうか? チップくらいなら気にするほどではないから」
お母さんが貨幣などが入った袋を取り出す。今までの買い物などでかなり小さくなっているが、多少の贅沢をしても問題ないくらいにはある。
「いや、それでは君たちが店員を呼んだときに私も注文すれば良かったのだ。もう一回呼び出すような手間と君のチップを費やすことはない」
「注文することが悪いことではなく、チップを払うことは店員の懐を潤すことに繋がる。これは話を聞かせてくれた礼として、私の気持ちを受け取ってください。もしそれでも納得できないのなら、他に話を聞かせてくれませんか?」
お母さんがボロの人の手を包み込むように握り、数枚の貨幣を渡す。女将さんからよく聞いているけど、お母さんのこういう天然な行動はやめて欲しい。ボロの人は分別があるタイプだと思っているので、それ程心配してないが。
けれど、昔は更に酷く本気になってしまった人がお母さんにおいたをしようと……床の穴に沈んでいった。その度に穴を空けるお母さんが怒られていたそうだ。それでも給料が貰えていたのは、それくらい客入りも良かったと思うと少し複雑だ。
「……ふむ、誰も損はしないか。君の厚意は有り難く受けよう」
ボロの人も注文して、私たちのテーブルには美味しそうな食事が並んだ。
海外ではチップは義務みたいな部分があるらしい。チップはそのまま店員の懐に収まる代わりに給料が少ないらしい。
因みにゆかりちゃんへのチップは女将さんか、マスターが代わりに受け取っている。ゆかりちゃんが止められると、上手く店が回り切らないからね。給料は修繕費から天引きされている。




