選択はいずれ迫られる
影「さて、言い訳はある?」
水「一口、一口にしたやん!」
影「……一口のつまみ食いは許すと言ったけど、
量を考えて欲しかったね。あんな頰に詰め込んで…」
水「ご馳走さん! 痛っ、……へへ」
「戦争というと、侵略みたいに聞こえるけど内乱に介入するって意味だけどね。演説で魔王国の国民へ同情させて、大義名分の下で力を振るう。その理由までは分からないけど、これを成せる時点で恐ろしいと思うよ」
力が一極化しているから、主教が望めば叶ってしまう状態。下手な言葉を言えば異端審問をされるかもしれないと言えば、分かりやすいかもしれない。国の方針を主教の意向に沿うように言論を統率できるのだから。
「そうだね。今までは聖王と主教が相互に見張る状態だった。何年も聖王の跡を継げる人が出てないから、諸問題が解決するまで着実に力を付ける時間は充分にあった。ああ、確かに彼の手前で不用意な言動は差し控えるべきかな?」
そんなことをいつもの調子で肩をすくめた女将のお兄さんは、次に私の方を見た。
「どうかと言われると……嫌われてそう、と思うよ? あの貼り付けた笑みとか、何を考えてるか分からない腹黒そうな部分とか色々と」
「はっはは、大人っていうのは多かれ少なかれ、やましくもないだろうに隠そうとするからね。それに、権力者が下手に尻尾を出すと引っ張られて落ちてしまう。互いに足を持って支え合う涙ぐましい努力は外聞からしたら笑い話だがね」
一頻り笑ったあと、彼は再び主教の方を向いた。
「一先ず私たちは下に降りてますね。露天を見て回りたいので」
「ああ、止めてすまなかったね。せっかくの祭りだ、楽しんでいってくれ」
店のテラスから降りて、外に流れようとする人たちについていく。
止めどなく耳に入るのは魔王国の批判のみ、既に私たちは特等席ではなく皆と変わらない地面にまで降りていることを否応なく感じさせる。
「無関係ではいられないね」
不意に溢れた言葉はお母さんの耳に届いたのか、私の手を握る力が強くなる。
「……安心して、私がいる限り離さないから」
大通りの流れは途切れず、大河のように力強い。もし流されたとして、流れ着く先は何処なのか。ただその流れにどう向き合うかが、後の私を飾るのだろう。
◇
「……旧来の関係は崩壊し、新たな時代が生み出されるか。世界は私の知らない方に変化し続ける。当たり前か、私は神ではないのだから」
思い通りに進まないのは寧ろ日常であったのに、その日常の名残を留めてしまいたいと思ってしまう。
そんな思いに浸ることなく進む若者たちを眩しく思いつつ、偶然にも白髪の彼女を捉える。
元の色も分からないほど着古した外套を羽織り、彼女に近寄る。
「そこの君、済まないが少し時間をくれないか?」
彼女は私を警戒して、一瞬で彼女の後ろで手を握っていた少女を背後に回す。
「…………良いですよ。でも、貴方は一体?」
「私は数多くの星を旅している。そこから先は後で好きに聞いてくれて構わないが……何処か座れる店で詳しく話そう」
……修正に修正を重ねて、昨日は間に合わなかったよ。




