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ピルグリム・クリスタリス  作者: 徘徊猫
幽明の灯火 前編・緋色ノ狂花
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善人の、善人による、善人のための政

ラル「善人が魅力的に感じるものは何でしょうか?

   それは善意と対極にあるものかもしれません。

   何故なら、善意を惜しみなく露わに出来ますから。

   善人が、善人たるを証明しようとする時、

   無意識であっても、それを望むかもしれませんね」

 私と同じか、少し上くらいの年齢だろう少女。淡い碧色の髪は顎にかかるくらいで、それが少し幼く見させるのかもしれない。

 しかし、その瞳は私と歳が近いとは思えないほど落ち着き、髪と同系色の輝きを放っている。その堂々とした様子のエリスは静寂の中で口を開く。

 「私はドルトムント主教に志願しました。何故なら、私は孤児院で育てられた孤児だったからです。私の出生地はかつて災厄に巻き込まれて荒れ地になりました。

 私が生きていられたのは単に幸運だったからです。かの災厄は人を積極的に襲いますが、稚児であった私の生命力が小さかったことと、災厄が去った直ぐ後に拾われたこと。どちらも満たしてなければ、私はここに立ててないでしょう。

 私は命の恩人であるこの国に恩を返したい一心で、世界の守護者として人類の先頭に立ちたい。未だに未熟な私ですが、皆様の立ち向かう勇気を私に託して下さい。如何なる逆境に立たされようとも、背中を押されて諸悪を打ち倒す。それが勇者の役割ですから」

 毅然とした口調で、淡々とエリスは語るが、固い印象を受けなかったのは彼女の情熱が、本気で勇者という役割を引き受けようと訴えていたから。

 この場に集まった人は少なからず、彼女の覚悟を肌で感じたために、暫く無言だった。それをようやく飲み込めて、大きな歓声が上がる。

 それは主教の演説とは比べられないほどの喝采。


 後に出てきた人たちの語る言葉は全て霞み、まさに勇者の披露式は終わりを迎えるかに見えた。


 ◇


 最後の演説が終わり、すぐに主教がバルコニーに立ち、自然と注目がそちらに向いた。

 「我らの未来は子どもたちが率いてくれる。しかし、我らの隣人の国は如何だろうか?」

 緩んだ空気が主教の言葉で少しずつ張り詰めてゆく。


 「友好国であった彼の国は今どうなっている?」

 ほぼ通信の途絶した都には入ってこないであろう情報。しかし、この国の最南端に住む人々なら否でも応でも耳に入る。


 「前魔王が就任して以来、我ら人類と友好的に接してきた。しかし、今代の魔王は暴政を引き、貧困に苦しむ国民を救おうともしない! 小さな子どもが碌な食べ物に有り付けず、その両親は無理に課された税を払うために体に鞭を打ち、未だ痩せた土地に鍬を打つ。己の血縁でさえも、権力を握るために始末した。

 果たしてそれを野放しにして良いのだろうか!」

 魔王国は未だに立て直し切れず、今では私たちの街にも数多く亡命してくる。


 「否ッ! 私たちは断固、そのような悪逆非道の行いを許すことは出来ない。それを我らの主が認めるはずがない。この世界は人類と魔族が平穏の中で暮らす場所だ。それを崩そうとする輩を私たちは止めなければならない。

 彼の国でも、非道な王を糾弾しようとする組織がある。私たちはその活動を支援する。それが主の御心を安らかにするのだ。

 もし皆が彼の国を開放する手助けをしたいなら、是非とも力を貸してほしい」

 その言葉は果たして真か、偽りか。そこに意味などなく、善人たちの意思が坩堝になって、巨大な力になることがただ恐ろしい。

 勇者の演説だと足りなかったので追加したら、

 割と書かなければいけない情報はまとまった。


 ゆかりちゃんが嫌いだと言った手口と、

 リリスの恐ろしいと思った状況は

 手段の段階で分かるか、実際に目の当たりにして知るか

 の違いでしかない。

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