扇動の権力者
水「あああっ?! また、遅刻するっ!!」
賑やかな空気が一時を境に切り替わる。静寂の中、城のバルコニーに一人の男が姿を見せた。この都に詰め掛けた人々と同じ赤い色の服を着ているが、頭にかぶる帽子だけは他とは違い、豪華な装飾が施されて非常に目立つ。その顔には笑みを貼り付けて、演説が始まる。
「この日、この場所に集まってくれた敬虔なる同志諸君。私はこの瞬間を迎えられた事を嬉しく思う。我らには数々の苦難が降り掛かってきた。
邪なる存在の侵略と我らが王の死。王はその身を代価として、我らに平穏を再び取り戻したが、世界は荒れ果て、その再興には幾年もの月日を要した。互いが助けの手を伸ばそうとも、人の身では無力であった。出来たのは連絡を取り合い、生存の報を聞き一時の安息を手にするのみ。
国は散り散りになりながらも信頼し合い、今日には隣人が手を取れる場所にいる。我らは最善を尽くし、やっと災禍に勝利したのだ!
今こそ、その祝福の声を天上まで響かせようぞ!」
「「「おおおおおおおおっ!!!!」」」
一部から上がった波は次々と伝播してゆき、熱狂の渦に包まれてゆく。
「本題の前にこんなに盛り上がるなんて。でも、あの演説にそれ程の力があったとは思えないけど……お母さんはどう思ったの?」
私にとっては全く心に響かない話だった。その当時が如何に暗い状況だったのか、私はよく知らないし、少なくとも私の周りでは絶望を引きずるような人はいなかったから。でも、それなら私と同い年くらいの人たちが熱狂する理由が理解出来ない。
「ほぼ間違いなく、この場所の至る所にサクラ……あの主教さんが熱狂する様に仕向けたと思うよ。支持者がいない訳ではないだろうから、その人たちと合わせて声を上げることで他の人も同調してしまう。……私はこの手法、好きじゃないな」
お母さんは何処か不安そうな瞳で主教の方を見ている。その理由を聞こうとしたその時、
喧騒が収まり、思わず主教の方を向いてしまう。
「今日は間違いなく、めでたき日である。過去に終止符をつけ、未来を心待ちに出来る記念すべき日。しかし、時代は移り変わり、私がいなくなる日も遠くない。故に、私は次世代を担うに相応しい才ある子どもたちを紹介しよう。
彼ら、彼女らが輝けるよう、私たちは盛大な拍手で迎えようではないか!
では、まず勇者の称号に最も近く、自らの意志で志願したエリス・レーゼン」
その言葉に従い、一人の少女が舞台に上がった。
とにかく、ぎりぎり時間の投稿!




