ラブストーリーが終わろうとも
水「何を見とるん? うちに教えて欲しいわ。
あっ、分かった。どんな本の趣味か、
見られるんが恥ずいんやな?
でも、その一歩が仲間を作るかもしれへんで。
因みにうちはラブストーリーとか嫌いじゃあらへんよ」
影「…………そうだね、じゃあ教えるよ。
これは昔であっても変わらぬ動機で、
身分の差があろうとも純愛と言っても良いほどの
情熱で対象を賭けた争いに身を投じる話だよ。
でも、相手は時の運がないと中々手に収まらないんだ」
水「へー、相手はどんな奴なん?」
影「権力」
貴賓席というべきだろうか。品のある店のテラスで、私たちは城のバルコニーの様子を前のめりに気にする訳でもなく、紅茶を飲んでいる。
「全身真っ赤かだと、服を選ぶ必要もなかったよね?」
あの茶番は一体何だったのか、部屋の外に配置されていた衣装を渡したのだ。服を選ばせた後に。
「そうだね、やっぱり考えなくて済むのが一番……何故こちらを残念そうに見るんですか」
お母さんがジト目で女将さんのお兄さんを見る。
「あれは君たちへのプレゼントだったのだが……そうなると男装以外で君の面白いところを見つけなくてはならないね?」
「見つけなくて良いですよ! 男装は趣味じゃありません、動きやすいから選んでるだけです」
お母さんが手中で弄ばれて、無視をすれば良いのに言い返してしまう。助けても良いけれど、今のお母さんが困ってる様子に水を差したくないのは私が意地悪だからかもしれない。
「はぁ、うちの大切な従業員を弄るのはそこまで。そろそろは主教の演説が始まるんだから、静かにしてやんな」
ざわつき始めた周囲の様子を理由に女将さんが助け舟を出した。お母さんは縋るように舟に乗ろうとする。
「そうですよ、厳粛にしないと」
女将さんのお兄さんはその言葉に従う——かと思いきや少し沈黙した後、思い出した事を淡々と話し出した。
「そう言えば我が妹も一時期男装していた時期があったような……あれは何時だったか。ふむ、そう考えると私は愚鈍だな」
「女将さんっ?!?!」
お母さんが予想外の事実に驚き、女将さんの方を見る。女将さんは何処か冷めた目で、余計な事を口にした張本人の方を向く。
「あれは——」
「俺と会った時にも、男装していたな。お前にもそんな時期があったなぁっ?!」
舌打ちをしながら、女将さんは肘鉄を隣に座るマスターさんに決める。
「だ、ま、れ!」
怒鳴られ、小さくなるマスターを憐れと思いつつも、雉も鳴かずば撃たれまいと昔教えてもらった言葉を思い出す。
「ははっは、そうだったな。いや、当時のことはお前が年に見合った精神の持ち主だったから目に留まっ?! ……何故私にも拳骨を?」
「あんたも同じさ!」
そんな様子を呆然と口を開けながら見るお母さんの横で、私は執事のお爺さんから教えてもらっていた。
「当時、この城下町に飽きたお嬢様はお忍びでよく散策をされまして。数奇な運命の巡り合わせか、現在の旦那様と出逢われたのです」
とてもロマンチックな話だが、今の様子を見ると途端に違うように見えてくる。それぐらい、私にはこの光景が自然に見えた。
……つい、ギャグパートを補充してしまった
追記
女将さんが家から抜け出す時に、抜け出したと気づかれないよう変装していた。なお、そんな事を執事たちも知ってるという事は…………
今まで書いてなかったけど、女将さんは二十代です。
マスターも同じくらい。




