熱い鉄は冷めないうちに
少女の会話に混ざれない肩身の狭い男の図!
と、見れば笑えなくもないかな?
少女らの会話に混ざらず、傍観していた老人は暫く待っていたが、話が終わりそうもないので仕方なく会話を切る。
「へー、細かく作られてるね」
[当たり前よ! 何せ——]
「おい、儂は構わんがさっさと準備せんと時間はあっという間に過ぎるぞ」
琥珀はむっーと思いながらも、会話を打ち切る。
「でも、お爺さん。準備しようにも、その道具がないんでしょ? 外にいた時にそんな感じの話を聞いたから」
碌な食糧すら用意出来ないと聞いていたので、少女は何かしらの補給が来るまでは待機だと思っていた。
「食料に関してはこいつに任せるが、武器はどうするんだ?」
「これは駄目なの?」
腰に差された刀に手を当て、首を傾げる。
「一つの武器だけを一生の供にする奴は武器を持ったことのない奴だけだ。もう数本は最低でも用意しておいた方が良い。それに——」
老人は少女の刀を鞘ごと引き抜き、自身の手の上で引き抜く。
「刀は刃が薄い、故に脆くもある。整備をしないと、これの持ち味も発揮しないしな。それと、これは見た目は刀に見えるが鋳造しているな。使えんこともなさそうだが、模型とそう変わらない」
刀身を鞘に収め、柄を少女に向けて返した老人は続けてこう言った。
「お前に紹介する奴がいる。中々の腕を持ってる奴でな、とにかく付いて来い」
◇
金属の音がリズミカルに打ち付けられて、少女はその調子で思わず肩を揺らしている。
「たん♪ たん♪ たったん♫」
[ほっ、よいっしょ!]
楽しくなってきたのか、揃って手拍子しながら廊下を歩く。
「……そろそろ着くぞ。おい、伽藍!」
老人がその細身から想像もつかない力強い声で名前を呼ぶと、筋骨隆々の男が部屋から顔を覗かせた。
「何だ、爺さん。今は……って、あっはは。成る程な、結局こうなってるじゃねえか」
突然、こちらを見るなり腹が捩れるくらいの笑い声を響かせた。状況の飲み込めない少女は予想外の状況に目を丸める。
「おい、いい加減笑ってないで自己紹介くらいしろ」
「いや、いや。笑っちまうのも仕方ねえだろ? 爺さんはもっと素直になった方が良いぜ」
どすんっ、と老人は笑い続ける男の腹に重い一撃をお見舞いする。男は廊下の天井まで浮き上がり、無様に地面へ着地した。
「……ふん、こいつの名前は伽藍。こんな奴だが、腕は良い」
鼻を鳴らして、老人は起き上がる伽藍を呆れた目で見つめている。
「かはっ、こほっ…………酷いぜ、爺さん。まあ、派手に吹っ飛ばしたパーフォーマンスみたいなものだから、気にしなくて良いぜ嬢ちゃん!」
いい笑顔でサムズアップしてくれる伽藍に少女は——
「…………」
あまりに刺激的な状況に思考がショートしていた。
◇
少女はやや動揺してるのか、伽藍から少し目を逸らしながら元のリビングみたいな場所で伽藍からの熱烈な押しに応えていた。
「一応、他のも試してみる方が良いと思うが……そんな材料ねぇしな。あー、でも少し使える奴なら残されてるかもしれないな。試してみるか?」
「うん……うん……それで良いです……」
[ねえ、凄くげんなりしてるんだけど、あの子]
「あいつは話すのが好きだが、その分仕事も丁寧にこなす。……それでお前はもう手配したのか?」
[私、貴方と話すのも嫌いよ。小言をいちいち言ってくるし……はぁ、反論出来ない私も悪いけどね! 手配の方は進んでいるわよ、進捗見る?]
琥珀は首に掛けていたカメラの画面を老人に見せる。
「ふむ、……よく分からんが進んでるなら良い。ところで、最近はそれが流行ってるのか?」
[絶対に何も分かってないよね。これはスマホみたいな……って、お爺ちゃんに分かる訳ないか]
少しの愉悦感からか、にまにまと頬を緩めている琥珀。
「いや、以前聞いた事はある、正直何の役に立つのかとは思ったが。…………前に見たものは小さい型をしたものだったからな」
懐かしむように瞳を何処かに、瞳を細める。しかし、すぐに目を瞑った。その老人の様子に、琥珀はため息を吐いた。
[……貴方は本当に此処から出る気はないの?]
「ああ、儂にはもう戦う理由がないからな」
[過去を戻る事は神にも出来ない…………こほん。余計な事だと私でも思うけど、…………何て言うのかな、結局私たちは今を生きるしかないって思うの]
人形の身でなければ、琥珀は少し恥ずかしそうに顔を赤らめていたかもしれない。しかし、その目は老人から離さず、真剣に見つめている。
「常識という観点から見れば、酷く愚かしく見えるかもしれん。だが、生憎と儂はこの身一つで生きてきた。俗世は繋がりを大切にする為か、周りが失われる事を恐れる。そして、自身が失う事を恐れるのだ」
[どういう事が言いたいの?]
琥珀はやや難しいそうな顔をして、要点を求める。
「そう急かすな。…………儂は儂の価値観の中で、選択するしかないという事だ。そもそも、この老木をこき使おうとするな」
[むー、説得できると思ったのにな。あー、恥かき損だよ]
琥珀は頰を掻き、息とともに緊張を抜いた。
[……お姉ちゃんみたいに上手くはいかないものだね]
慣れない事に疲れて、ぼそりと呟いた。
勇気を出してフラれた感じになってる……
ハッ、これが心? なんでやねーん!
セルフでやると、少し寒い気がする。