翻す期待の陰
ラル「さてー、最後の一枚は誰が食べるかなー?」
葉「じゃんけんで決めよう」
水「それは狡いわ、こんな薄いのでも分けた方が
一番ええと思うよ」
パリッと音を立てて、煎餅は割れた。
葉「ちょっと、そっちは大きいじゃないかな!」
水「気のせい、気のせい。パリッ……ボリ、美味いわぁ!」
夕暮れの明かりが差したところで、少女は中庭に降りてきた。リリスを探して視線を走らせると、その光景に思わず笑ってしまった。
「ちょっ! さっきから並びなさいって言ってるでしょ!」
背の低い子供たちに囲まれたリリスは腰に下げていたお菓子袋を上に掲げて、取ろうとして手を伸ばす無邪気さが可愛らしい。
「良いだろ! まだ沢山あるじゃん」
「あんた三枚目でしょ、今度はわたしなんだから!」
その様子を老婆はお茶を啜って、微笑ましく眺めている。
「探しものは見つかった?」
「ええ。でも、まだ知りたいこともあるので……また来ても良いですか?」
「あなた達なら大歓迎よ。最近はせっかちなお客さんが多いから」
快く頷いた老婆とともに戸惑っているリリスの様子を眺める。中庭をあっち、こっちに動き回るのに子供らも付いて行くのはまるでアヒルの行進だ。
「あのお嬢さんとは家族なのね?」
「ええ、血は繋がっていませんけど、大事な家族だと思っていますよ。いい子過ぎるのが、偶に心配になりますけどね」
皿洗いや、洗濯の手伝いをしてもらうのは後でリリスだけでも出来る様にしてもらうためでもあるのだが、断ることは一度もなかった。添い寝も最近は余り頼むこともなかったので、それを成長したと言えば良いのか…………少なくとも少女にとっては寂しくもある。
「……何処かであの子の面影が知り合いをちらつかせたのだけど、そういう事ね」
「それがどうかしたんですか、リリスは私の妹で、ただのリリスですよ」
少女は周囲に気付かれないくらいで、老婆の視線を険しくする。しかし、老婆はなんて事ないようにお茶を啜る。
「別に知り合いに似てると言っただけよ。私も、長いこと会ってなかったから少し朧げだけどね。……世界は移り変わってゆく、年老いた私たちを置いてゆく分には問題ないけれど、これからあなた達は困難が降りかかるでしょうね。それでも、断たれない情念を私は信じてる。主の御心のままに、かつて示された道は未だ閉ざされていないのだから」
「…………? 通報したりしないの?」
老婆は少し遠くを見つめ、ため息を吐く。
「そんな事をしても何にもならないよ。私からしたら、それは教えを破る事と同じだからね。それよりも、主教には見られないようにした方が良いわよ。今は録でもない結果しか招き寄せないから」
「それは一体——」
「あっ、おかっ姉さん後ろ!」
ばさぁっ、と少女は後ろからワンピースが棚引く。後ろで捲った悪戯小僧も、手を伸ばしたリリスも予想外の晒されたハーフパンツに呆気に取られる。
「…………はしたなくて申し訳ない」
裾を手で抑えて、少女は俯いた。何か、諸々の期待とか、周囲に今まで合わせてきた分、ラフな格好があのコスプレのような和服以外の洋服だと動きにくいと思いつつも、周囲の目を気にして隠しているやましさとかがない混ぜになって、少女はふらふらと孤児院を出て行った。
台詞中に擬音を入れるのはどうなんだろうか?
前書きにある水の台詞の擬音は煎餅を食べた音だけど……
もう少し良い方法を探そう。
少女の服装について
はしたいないの意味が上品ではないというもの、
要するにその場の雰囲気、又は社会の常識というかを
少し外れた格好は周囲から浮くわけで……
居た堪れなくなり、ふらふらと去って行ったということ。
因みに、少女の履いているのは男物を詰めたもの。
女性用のハーフパンツなんて、この世界にはまだないから。




