庭先で蕾に触れる
葉「はふぁ、はふっ……出来立ては美味しいわね」
ラル「出来立てはー、魔の魅力があるからねー」
葉「縁側で食べるのはちょっと、何か違う気がするけど」
ラル「いや、ここでパンを食べることでー
ほら、ぽーぽー。餌を求めて近寄ってくる」
お母さんからお菓子を大量に渡された。
お母さんのお菓子は偶にもらうお土産のお菓子より美味しいと感じるのは自明の理、というか少し焦げてしまったクッキーで味見もしたから当たり前のこと。
だとしても、こんなに要らないとおもうのだけれど。
さて、部屋を出た理由は勿論邪魔をかけないためでもあるが、私が本を好きではないことも理由にある。別に本を読むことに苦労するとか、そういう前提の問題ではない。
ただ本に書かれたものより、手折られた花々が飾られているのを見る方が好きなだけ。
それは私たちが住む家が寂しそうに思ったからかもしれない。元々の住人が明け渡してくれたものらしいが、その住人が使っていたらしき痕跡は見当たらず、お母さんも家には余り留まらないで出稼ぎに行く。
私だけがその寂しさを払拭できる。そんなことが花に興味を持つ始まりだったのかもしれない。
◇
流石に他の部屋に入るのは気が引けるので、またお婆さんがいる中庭までやってきた。
「あら、あなたは書斎に用はなかったようね」
「今すぐに、何か知りたいものがある訳でもないから。暫くここに居てもいい?」
お婆さんが頷いたので、遠慮なく周囲の庭を鑑賞させてもらおう。
あの女将さんのお兄さんの屋敷には素晴らしい庭園があったが、それと比べると洗練はされてない。当たり前の話だけれど、手入れをする人が多ければ多いほど手間をかけられる。
手間をかければ、見たときに心をより強く揺さぶる。洗練とは高貴なものを生み出すのではなく、魅せたいものを磨き上げると言った方が分かりやすいかもしれない。
対して、この孤児院の花々は手入れはされてない。所々の枝は折れてるし、花壇を作らずに地面から直接生えている、つまり石で舗装されていないので踏み固められた道もある。
でも、植物も人も、この場所に何かを刻んでいる。その生活感と呼べば良いのか、暖かみが心地良い。
「お嬢さんは花が好きなのかい?」
うん。手入れがなくても植物は自分から目を出してゆくけれど、大味の豪快なものになってしまう。そういう景色を知るのは良いとは思う。でも、私には二つの手があるんだから、この光景を、この感動を分かち合いたい。大好きな家族だから」
お母さんは私に甘い。お小遣いだけでなく、服や人形を私に与えてくれる。不満があるとすれば、せめて一緒にいる時間はとれなくても仕方ないけれど、私のお返しを受け取って欲しいということ。何処か一線を引いてしまうこと、こちらが駆け寄ろうとしても曖昧にされてしまうから。それが如何なる理由でも、私は気にしないのに。
何だかんだで、琥珀は私の友達だ。向こうは年上のはずなのに、私より何処か子どもっぽいというか……とにかく、対等な関係は気付けてるのだと思う。
私にとっての世界は家の中で。お母さんや、琥珀が起こしてくれて、少しお母さんがいないときは寂しい料理が、最近ではいるときの豪勢な料理との対比からかより美味しく感じられる。お風呂では琥珀の体に油が跳ねたとかで洗うことになったり、一緒に流し合いをしたり……そんな毎日が幸せに思う。きっと、私がこれ以上を望むことなどないと思えるくらいに。
「そう、あなたの母親も幸せでしょうね」
少し眩しそうにこちらを見るお婆さん。その言葉に、ふと顔を俯かせながら恥ずかしそうに照れるお母さんの姿を幻視する。
「であると……いいな」
「大丈夫よ、あなたがそんなに幸せそうな顔をするんだもの。…………私も子らを、何よりあの子を幸せに送ることはできたのかしらね」
最後に漏れたお婆さんの呟きには答えなかった。それは私の口からでは答えられないものだから。
果たして少女は一体、何枚のクッキーを作成したのか……
因みに作者は出来立てのチョコブラウニーも、好きです。
紹介の理由は……ないです。
チョコの甘さと、焼きたてのホクホクさが美味しい。
冷めても、食感がしっとりして美味しい。
作者の舌はなんでも楽しむ貧乏舌だけれどね。




