露店商よ、今こそ乗じらむ
影「服を選ぶのって、疲れるよね」
葉「ごめん、私にはあの子がいるから考えたことないか
な。というか、何故人も、神も服を着るんだろう?」
影「……モラル」
『孤児院は貧民層と一般層が住む区画の境目辺りに立っている。
孤児院を経営する院長は既に老齢の女性で、国からの扶助を受けながらも、普段は一人で切り盛りしている。貧困層の住人は基本的に彼女の手で育てられた者が多く、行事などを行う際には周囲からの協力してもらっているようだ。
この城下町に貧困はない。何故なら、貧乏であったとしても、互いが支え合って生きている町だから』
観光ガイド・聖都刊行
◇
朝っぱらから孤児院にお邪魔に行くのは躊躇いがあるため、少女たちは市場が開かれるという貧民層の区画へと足を踏み入れた。
「随分と賑やか、朝市だからかな……」
立派にテントが張られた屋台もあれば、路上に一枚の布を敷いて並べられたり、マッチ売りの少女のように籠に敷き詰められた花を通る人に売ってゆくようなこともしたりしていた。
「お姉ちゃんは何を見に来たの?」
「本を見せてもらうだけ、というのも気が引けるから。お菓子でも渡そうとね」
少女はざっと見渡して、必要なものを確認したあと、隣にいるリリスの方に視線を向けた。
「リリスは何か見たいのはあるの?」
「んー、付いてきながら見て回ることにするよ」
少女たちは手を繋いで、賑やかな喧騒に包まれていった。
◇
「……私には選べないよ。そんなに飾りを見ても、分からないから」
「そう? お姉ちゃんが買ってきてくれる服や、飾りは良いものだと思うよ」
少女は困った顔をしながら、リリスの提案してきた二つの髪留め。装飾には花があしらわれて、淡い紫色のものと、上品な紅色のもの。露店の商人はその様子を外侮から愉快そうに眺めている。
「あれは先輩とか、女将さんにも手伝ってもらってるから……私が選ぶと機能性を重視しがちだよ」
少女の今の姿は動きやすさを念頭に置いたもので、ハーフパンツを履いている。ただハーフパンツであの屋敷を動き回るのに抵抗感があったのか、少し丈の短いワンピースで下を隠しているが。
「確かに必要以上はお姉ちゃんからおめかしするところなんて、見たことない。だからこそ、もう少し、あと一歩踏み出そうよ」
熱が入ってきたのか、リリスの頰は赤く染まり、対して少女はその圧にたじたじになっている。
「あっ、そうだ。二つ買おう、店主さんお願いします」
その圧を逸らすため、選ぶという選択肢を少女は放棄した。
◇
その後も、適度に店を覗いては先程のような押し問答が起きたり、起きなかったり。
ある時は良い匂いに釣られて、寄ってしまった屋台では少女が店の商品を買う代わりに厨房を間借りし、リリスにお菓子の作り方を教えたり。
ある時は少女たちのことを聞きつけた人々が少女たちの容姿を見にきて、人気投票が見知らぬところで行われたりと、昼までの間をそんな感じで過ごした。
堂々寄り道!




