日差しより暖かな居場所
水「右良し、左良し……今だ!」
影「今だ! じゃないよ、宿題から逃げないの」
水「帰ってきてたんか?
せや、勉強のお供がないからお茶頂戴」
影「………あっ、お義父さん」
水「ねひゃぁぁ?!?!」
首根っこ掴まれて、元の部屋(音が鳴る仕掛けが沢山)に戻されていった。
夜はどうして、こうも冷えるのだろう。幼いときからお母さんのいない夜は嫌いだった。
誰のものか分からない視線が私を貫いているようで、ただひたすらに不気味だ。
だから、私は毎度のごとくお母さんに添い寝をしてもらっていた。お母さんは強くて、きっと何者からも守ってもらえるから。
◇
足音を立てずに、そっとお母さんの部屋まで忍び足で向かい、すっと部屋に入る。
少し周囲を確認して、お母さんが寝息を立てるベットまで周りを飛び交う蝶を一切刺激しないように少し回り道をしてベットの横まで辿り着く。
しかし、そこで一番の障害が声を上げた。
[はぁ、何やってるのよ。ここは家じゃないんだから、リリスにはリリスの部屋があるんだから、そこで寝なさいよ]
「一日目ぐらい良いじゃん。枕が違うと眠れないみたいに、初めての場所だと一番安心できるところで寝たい」
人前にいた時とは別に、子どもらしく琥珀の言葉に頬を膨らめてしまう。もう一度周囲の気配を確認して、被っていたナイトキャップを外すと、自前の黒い髪が軽く開けられた窓から吹く風によって棚引く。
「これまでの道でも、寝る時くらいしか、かつらを外せなかったし、少しくらいは気を抜ける場所にいても良いと思うの」
[それ、起こしに来た使用人に見られたらどうするのよ。それだけは、せめて被って寝なさい]
ちぇ、と口から漏れるが琥珀が私の意見を聞いて改めた試しがないので仕方なく妥協する。
[本当によく今まで乗り切れたわね。危なっかしくて、見てられないわよ]
「ずっと本体が家にいる琥珀には分からないよ。まあ、ここに着くまでの道のりと違って、人の意識が完全に別の方向に向いているから私にとってはここは楽なところよ。でも、お母さんの横にいる方が居心地が良いことに変わらないけど」
無駄に広いベットに潜り込み、お母さんを寝苦しくしては仕方ないので少し間を空けて横になる。
しかし、目が冴えていたのか眠れない。琥珀に話し相手になってもらおう。
「そう言えば、散策しているときに変な気配がした気がするけど、知らない?」
[…………確かに、今まで感じたことのないような不気味なものなら感じた気がするわ。ただこの依代がそれ以上の能力を引き出させてくれないから曖昧なくらいに落ち着くわね。はぁ、流石にラルルさんに頼みに行った方がいいかな]
何か別のことを思案し始めた琥珀を不満に思いつつも、襲う眠気に負けて、私は目を閉じた。
カツラという古典的な方法、だからこそ気がつかないかも?
リリスの目に関しては……
どうしようか? カラーコンタクトで誤魔化せるけど、
そこら辺は補完を想像力で!




