豪華絢爛、されど和気藹々な夕餉
水「ねえねえ、あれ美味しそう!」
影「そうだね……私は作らないよ?」
水「むぅ、ケチやね。ええやんか、
うちは影のご飯食べたいわ」
影「いつも食べてるでしょ」
水「そら、美味しいからね!」
最初に来た屋敷に着くと、少女たちは家の前にいた門番に通される。玄関までの道にある手入れされた庭園を見れば、かなり手間をかけているのか、どこから見ても瑞々しく花開いている。
「前に見たときも素晴らしい花々と思っていたけど、今はより新鮮に思えるよ」
「剪定って、やっぱり大事なのかな? 庭の手入れまでした事ないから、家に帰ったら一度試してみよう」
そんな事を話しながら、中から開けられた扉を開けると、使用人らしき人たちが一斉に出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。現在も主は妹様とお話しされていますが、貴女方を客室まで通しても良いと言伝を預かっております。もしお疲れのようでしたら、貴女方のお部屋までご案内します、いかが致しますか?」
自然と背後に回られて、持っていた荷物を使用人がいつの間にか預かっていた。
「そうですね、……客室まで案内をしてくれますか」
これが一般人とは違う、富裕層の日常なのかと少女は顔に出ないくらいに留めながら疲れは顔をした。
◇
使用人が迎えてくれた踊り場からは気にならなかったが、部屋に近づくにつれて笑い声がここまで聞こえてくる。気を張ってしまう空間が少しずつ弛緩し、少女が毎度働く場所だからか身体の緊張が少しずつ解けてきたようだ。
案内をしてくれたメイドらしき女性がノックする。
「何だ?」
その瞬間に笑い声が止み、一人の男の声が聞こえた。
「客人が到着されました」
その言葉で引き締まった空気が元に戻る。
「そうか! 是非とも入ってくれ」
すっと、使用人たちは下がり、少女が扉を開くと和かな笑顔で普通ならピシッと決まるであろう服を若干乱している男が歓迎してくれた。
◇
「この男と酒盛りをしていたのだが、何分こいつは酒を嗜む程度だからすぐに酔い潰れてな。話し相手を探していたところだ」
部屋の端の方では唸れているマスターが横たわって、女将がその様子を迷惑そうに顔を顰めている。
「ったく、何で客と飲むときは酔わない癖に一人だと酔うんだよ。働いている途中で酔われても困るんだけどさ」
「…………ぅぅ、まだだ。まだ負けてなぃ、うぃ……」
ここまで情けないマスターの姿を見たことがなかったので、衝撃だったが少女は尊厳が少しでも守れればと目を逸らす事にしたらしい。
「君はお酒は大丈夫か? 良ければ飲もう、私の家には良いワインが沢山あるからね」
「子どもをあんたの娯楽に巻き込むんじゃないよ! はぁ、これだから飲兵衛どもは」
少し戸惑っていた少女に女将が入ってきてくれた事で難を逃れる。
「ははっ、なら食事にしようか。君たちは食べられないものはあるかな? 何、遠慮なく食べると良い、お金は使ってこそ意味があるものだからな」
しかし、怒涛の勢いを簡単には打ち消せなかったようだ。
◇
「下がって良いぞ。…………さて、そこの夜更かしに失敗したような子どもは置いといて、君たちの話を是非聞かせてくれないか?」
料理を用意した使用人が下がった後に、家の主は尋ねてきた。
「良いですけど、経験したことの感想くらいしか話せませんよ? 弁舌は上手くないので」
「ははっ、それは構わないよ。私は商人だからね、妹の店で活躍する君がこの街や旅をしてきた場所で何を見てきたのか、それが次の商売に繋がるかもしれない。まあ、それは私が活かせるか次第だが、君の活躍を聞いたから素直に興味があるんだ」
少女は少し考えたあと、話し出した。
「…………そうですね、私たちはまずこの城下町の本屋に向かいました」
「本屋か! ということは、大通りにある観光の本が店頭に押し出されているあの場所だね。大体の人はあそこでここの地図などを見るからね。うん、君たちはそこで何をしたのかな?」
促されるままに、少女は返す。
「本当は昔に書かれた物語の載っている本を探していたのですが、観光の本に書かれたある名前が気になりまして……つい、その方の自叙伝を買ってしまいました」
少し恥ずかしげに語る少女に、主は思わず吹き出すように笑ってしまった。
「はははっ、あれを買ったのか。失礼な話だが、あれは主教が私たちのような商人からお金を提供してもらいながらも出版した問題作でね。数年前の話なのだが、あれ以来全く売れてないのだよ。彼は聖王とは違い、尊敬はされないからね」
笑いが収まったあと、息を整えるように暫く呼吸をして少女に話しかけた。
「そういえば、君は昔の物語に興味があるようだね。宜しければ教えてくれないだろうか?」
「えーっと、仮面を被った鬼が国の闇を晴らすお話……みたいな? 知り合いから聞いて、少し気になってるだけですよ」
ぼかしながら話す少女の言葉に、主は少し考えた様子のあと、こんな事を言ってきた。
「ふむ、私には分からないが、絵本と言えば孤児院だろうか? 確か……聖王が進めたものだったか、絵本が孤児院に沢山寄贈されていてね。もしかしたら、その中に一つあるかもしれない。良ければ紹介するが、どうかな?」
少女は一度リリスの方を見ると、リリスは笑みを見せるだけだ。
「はい、お願いします」
「任せてくれ、とにかく今夜は大いに楽しもうではないか!」
宴は途中から起き上がったマスターも巻き込み、少女らが去り、夜を明かすまで続いた。
自叙伝、デデデン
すまない、今日は一回投稿だ。




