日差しに晒されるもの、陰に差されて映るもの
葉「最近は本屋が少なくなってるらしいわね」
影「そうなの? んー、私にはよく分からない。
色んな場所に行くからね」
葉「窃盗とか、そういうのをされると厳しくて、
あと、媒体とかの移行があるから。
でも、紙には紙の良さがあるからなくならないで
欲しいかな。本は良いものだからね」
本屋に辿り着いた少女たちは少し暗めの落ち着いた店の様子を見て、ほっと息を吐く。
「仄かな薄暗さが意外と安心するものとは思わなかった」
「うん、本を探しのついでに休憩しよう」
リリスが提案し、少女もこれに賛成した。
店の表にまで本が置かれているのは、この城下町の治安の良さを表してるのだろうか。流石に高そうな本は奥にあるが、多少褪せても問題なさそうな観光のガイドのようなものを少女は手に取る。
「へぇ、大きさに反して、かなり分かりやすい構造をしてるんだ……これなら居るうちに周りたいところは行けるかもね」
円状に広がったこの都は適当な位置に、一定の間隔で区画が分かれており、産業であるワインを使った料理店は同じように富裕層が住む地区の近くに。
一般層のところには多くの店が立っているが、値段はピンキリで店の種類もまちまち。きっと、様々な国から色んなものが運ばれてくるのだろう。
貧困層というのは何だが、定期的に炊き出しや公共事業の求人が張り出され、食い繋げる程度には豊かなようだ。また、この場所に住む人が主に開く市場では面白い掘り出し物もあるかもしれない。
軽く目を通したあと、最後の方に著者の名前や編集した人の名前がずらりと並んでいる。
「…………見間違い、名前違い? ドルトムントって、確か主教の名前だよね?」
しっかりと判子が押されているのを見て、少女は何とも言えない顔だ。それはそうだろう、何となく良くない噂を聞いて、そのお膝元であるこの都に来たらこれである。調子を崩された気分だ。
少女は徐ろにその主教についての本を探す。流石に料理本にまでは名前は載ってないが、自叙伝を見つけたときにはもう言葉も出なかった。ついでに、主教が自身で創作した物語を見つけたときには、
「随分と、精力的な人だね……どうしよう、興味が湧いてきた」
その本を手に取り、本屋の店主に聞くと意外と安かった。
「説教臭いというか、何だろうな。あれは今の時代に売れるような本じゃない」
店主の総評に人物像が気難しい人になってゆくが、主教のセカンドプランはペンを取りたいのだろうか。
しかし、一度気になって抑えられないのか、手が店主に伸びかけるが、本当の目的を果たしていない事が躊躇させる。仕方なく、昔の物語などを見てみたが、それらしい物語は見つからない。
「どうしたの? ……ふむふむ、お姉ちゃん、それ私が買ってあげるよ」
「リリス……私の分は良いから貴女のお金は貴女が使いなさい」
つい、いつもの口調で答えてしまった少女にリリスはしたり顔で頷く。
「なら、お姉ちゃんにプレゼントしても構わないから、ほら貸して」
その言葉にリリスを咄嗟に止められず、会計に向かっていった。
「二人は姉妹か? この街のように白い良い髪をしてる。ふむ、負けてやるから、ちっと待ってな」
暫く店主が店の裏側に行くと、本を包装して帰ってきた。それをリリスは受け取り、少女らは店を出た。
「ごめんね、リリス」
「いつものお礼を少し返しただけだから気にしないで。私としては、もっと自分の事にお金とか使っても良いと思うよ」
少し難しそうな表情をしたあと、苦笑いでリリスに応じる。
「私は……あまり自分にお金とか、時間をかけようとは思わないから。だって、服はいつもの方が動き易いし、やるべき事は多少あるけど趣味がないから」
リリスや、琥珀と一緒にいる時間が最も楽しいという少女にとって、お金や自分の時間はより価値がない。特に時間は、長い時を生きることの出来る彼女らにとっては人より遠くに感じられるだろう。
「そうかな? 私はお姉ちゃんが好きな事、趣味も何となく分かる気がするよ」
意味深なリリスに少女は首を傾げて尋ねる。
「それは?」
「その人の歩んできた道とか、国はどんな決断をして、どんな風に発展したのか、とか。お姉さんは歴史とひとまとめに出来るけど、そういうものを見ることが好きなんだと思うよ。だって、お姉ちゃんの目は普段色んなところに向くけれど、人の話を聞くときはしっかりこちらを見てくれるから」
日が天の頂きから降りてきて、夜が空を染めようとする。二つの影は夕餉をとる頃には再び出発した場所まで戻ってきた。
もはや、前書きが気のままに書く場所になってる。
最近思った事が、英語で書かれた本は横書きなんだなぁっ
て。
いや、よく考えてみると縦書きの英語は読みにくい。
今更だけれど、ここも横書きだねと気づく。




