人形は聡くない
お茶は美味しい。好みはジャスミンです。
「それで何をするの?」
少女は疑問から首を傾け、腕立て伏せや素振りをする光景を思い浮かべる。
「そんな事をする時間はない、実戦から学んでもらうぞ」
当然と言わんばかりに老人は答えた。
「自信ないけど、大丈夫かな」
「頭と心臓さえ守れればそれで良い。そもそも余程のことがなければ、そこのが補助してくれるだろうよ」
指を差された琥珀は不快そうに老人を睨みつつ、語り始めた。
[緊張感は持っている方が良いけど、君の肉体は依代なのよ。だから、肉体がぺちゃんこ……うっ、これはちょっと刺激的な表現ね。まあ、それでも大丈夫ってことよ。例外もあるから、油断はしない事ね]
自分の言葉なのに、想像してしまい気分が悪くなった琥珀は深呼吸をして、気を落ち着かせた。
「大丈夫? ……流石に、私も自分からその恐怖を克服しようだなんて思えないけど」
少し眉を顰めるくらいに留めた少女は気にし過ぎないように頭を振る。
「死の淵で転ばぬように必死で争い続けろ。そうでなければ、お前が言った言葉は妄想に成り果てるからな」
少女はこくりと頷き、次の疑問を口にする。
「この身体、依代って言ったよね。どう言う事なの?」
少女は自身の格好を確認する。ノースリーブの和服に、袖の部分の所が腕に付いている。言葉を濁すなら独創的な和服、直上的に言うならコスプレだろうか。
[そうだね、簡単に言うなら君は今の私と同じ状態と思ってくれればいいよ]
少女はじーっと、人形を見る。どう見ても、素材や、身長や、色々比べても比較対象にすらならない気がする。
「…………琥珀の分は用意されなかったの?」
可哀想に、或いは憐れみを込めた瞳に琥珀は大きく反発する。
[なっ、そんな訳ないでしょっ?! 私が人形の姿なのはこっちの方が可愛いからっ! 私がラルルさんにお願いして、作ってもらったの!]
ふんっ、と体を少女から逸らして、腕を組む人形。人形でなければ、頬をぷくっーと膨れてたかもしれない。
「ごめん、そうだよね。人形の姿を態々選んだって事は、それだけ好きなんだよね。言うの忘れてたけど、十分に……凄く可愛いよ」
[そ、そう? まあ、分かったのなら良いわ]
あまりのチョロさに詐欺師に騙されない事を願いつつ、琥珀は説明を続ける。
[私の場合はこの姿で此処にいるけど、…………本体って言えば良いのかしら? まあ、そっちの方が説明しやすいわね。その本体の体と別の体を今は動かしてるって訳。分かる?]
「……つまり、今の私の体は本当の体じゃないって事?」
自身の趣味でなかったことに安堵の息を漏らして、少女は続いて聞く。
[そうね。ああ、でも、君が何で此処に送られてきたのかは知らないから。瑠璃葉姐に聞くのが手っ取り早いけど、今は私も手を離せないし、その疑問は後でね]
琥珀はそう言って、不安げに遠くを見つめた。
茶番かと言われたら、首を傾げるけど。
まあ、面白い感じに書けたと思うから良いよね!
タイトルで良いのが思い浮かばないから……