塵はなく、影もない城下町で
水「善人っていうのは、尊敬できると思う。
でも、善人がぎょうさんいたら、没個性や。
それが悪い訳かと言われるとちゃうんやけど、
誰であったも手を差し伸べてくれるのなら、
誰の手を取ってもええよね?」
影「水? ご飯だよー」
水「何でうちには格好つけさせてくれないの!?!?」
王都は白亜の街並みで少女たちを出迎えた。洗練された建物の様式は優雅に見るものを圧倒させる。馬車の通る道から少し逸れたところには魔法を使った大道芸をする芸人が音楽を指示するようにタクトを振り、それに沿って薄氷がきらきらと散ってゆく。
他の場所ではぷわぷわと浮かせた水泡を見物の少年の顔に近づけて、ぱん、と音を立てて割っていた。
「はぁ、ここは相変わらず、つまんない街だね」
その様子をその言葉通りの表情で見つめる女将。
「そうですかね、綺麗で良い街だと思いますけど」
道には塵一つなく、街の雰囲気も笑顔に包まれている。
「ああ、そうさ。この街は綺麗過ぎる」
街の様子に興味を失った女将さんの言葉を疑問に思いつつ、街から目を逸らすと聳え立ち、日の光を煌々と反射している王城がその白さを際立たせる。
「確かに、一面一色だとつまらないね」
顎に手を当て、外を見ながら少女は呟いた。
◇
「これからは若者に楽しめない時間さ。あんたらは観光に行ってきて良いよ、ここの家長も挨拶は気にしないから」
という訳で、自由時間を予定外にも手に入れてしまった少女とリリスは大きな屋敷の前で立っていた。
「おか……お姉ちゃん、どうする?」
「うーん、あっ! 本屋に行こうか、私の用事もあるけどリリスの分も買えるよ」
じゃりっ、と袋から小気味良い音が鳴る。これは道中の街で少女たちが売り子をやった事で手に入れたお金だ。
「うん、でも道が分からないし……戻って、頼みに行くのも申し訳ないよね」
そんな感じに途方に暮れかけていたところを通りがかった人から声を掛けられる。
「どうかしたのか? お嬢さんたちが困ってるなら、多少のことは俺に聞いてくれれば良いが」
「ええ、丁度困っていて……先程ここに来たばかりなので、本屋を探してるのですが知りませんか?」
そうすると和かに笑い、詳しく道を教えてくれた。
「ありがとうございます」
「いいや、気にするな。人は助け合うことが大事だろう? 当たり前のことをしたまでだ」
少女は一通りのことを聞き終えて、リリスとともに本屋に向かう。その道中、
「親切な人だったね、こんなこともあるんだ……」
先程の事に驚いているのか、リリスの口は開きっぱなしだ。
「…………成る程、この都の人はきっと困った人に手を差し伸べて、笑顔を分かち合える素晴らしい人々なんだろうね」
行き交う人々を見てみると、皆が幸福の元にいる。それは王がいなくなっても、精神的な柱があるからだろう。
「さて、少し急ごうか。きっとこの都なら、誰に訊いても道をおしえてくれる」
少女が手を伸ばすと、リリスはその手を握り返す。同じような気色が続くこの城下町で、互いを見失わないように。
前書きについて
それっぽい言葉を格好つけたまま言わせない精神。
関係ないけれど、五万字突破したわ!
ふぅ、今月の目標は何とか超えた。
これからも、ピルグリをお楽しみに!




