枯れ葉は秋を憂へず、その様を尊ぶ
ラル「ネタがー、思いつかないー」
馬車の中から外を覗くと好奇の目がこちらに向いている。落ち着かずに、そわそわした様子の少女に女将が気を利かせてくれた。
「若い子たちには、この馬車の中でじっとしてるのは暇でしょう? だから、お茶の用意があるの。飲む?」
「ええ、ありがたく」
「ちょ、リリス?!」
遠慮なくティーカップを受け取ったリリスは一口飲んだあと、少女に視線を向ける。
「……私も貰います」
がたがたと馬車は音を立てるが、気になるというほどでもなく、少しカップの中身が揺れる程度。聖都への道は舗装がなされているため、車輪が壊れない限り問題なく進めるだろう。
「普段は家で何をしてるんだい?」
「お姉ちゃんがいない時は本を読んだり、料理を作ったりしてるだけですよ。まれに外に出て散歩をしますが、一日で見れる範囲も限られますから」
家にいればいつも側にいるからか、少女が意外そうな表情をする。
「散歩するんだ、てっきりリリスは家にいるのが好きなんだと思ってたよ。ほら、偶にしか私がいるとき外に出ないから」
「それは家にいるだけでも楽しいからだよ。いつもはお姉ちゃんの方からピクニックに誘ってくれたり、街にまで連れてくれたりするのも楽しい。私はお姉ちゃんと一緒にいるときなら、いつでも楽しいよ!」
少女はその言葉に頰を掻きながら、嬉しそうに笑う。
「…………そうだ、ゆかりちゃんの面白い話、聞きたくないかい?」
「女将!? 流石にリリスの前では!?!?」
「聞きたいっ!」
悪そうな顔をする女将に、身を乗り出して興味津々のリリスは勢いに少女は口に手を当てて、あわあわとすることしかできかった。
◇
「——それでね、あのときの慌てようといったら……」
「ふむふむ、それでそれで?」
賑やか馬車内で少女は額に手を当てていた。頬から口に、口から額に伝う流れはここで終着点だろうか。これ以上は手が宙で白旗を振るかもしれない。なお、少女の顔はもう真っ赤だ。
「いや、あのときは気が気じゃないみたいで、普段の冷静さが嘘みたいに吹っ飛んでたよ。今じゃ、こっちが熱を出してるみたいだけどね」
「確かに風邪は悪化すると恐ろしいと思いますけれど、あのときは熱が出ただけだったのに、ふふっ」
少女の必死な顔を思い出したのか、笑い声が漏れる。
「もう、もうやめてぇ…………」
完全降伏の白旗を少女が振ると、先程より大きな笑い声が響き渡る。
「全く、この子は変に意地っ張りなんだから。リリスちゃんも、こうなっちゃ駄目よ」
「……それでも私の大好きなお母さんだから」
小さく、ぼそりと呟くだけだったが、それがトドメの一撃とばかりに少女に突き刺さった。
「ぅぅ……くぅ……ぅぅ」
途中から少女の口から漏れる声が感極まったものに変わってゆき、リリスの方に体が倒れる。白髪の髪が絡まるように、彼女らを繋いでいた。
◇
「なあ、俺がいうのも何だがやり過ぎたな」
「つい、手加減を誤ってしまったわ。駄目ね、もうおばさんみたい」
御者台と馬車の間にある隙間から女将とマスターは話していた。
「おい、それじゃあ俺がおっさんみたいじゃないか」
「充分おっさんじゃない? マスターだからって、ちょび髭なんか生やして」
「うるせぇ、若気の至りだ……って、こういう時点でもう歳なのか?」
自分の言った言葉を訝しむマスターに、隣から笑い声が漏れる。
「いやいや失敬。お二人はまだ充分若いですよ。この爺には全てが活気が輝いて見えるようで。楽しい旅路となったこと、またその光景を儂に見せてくれたこと、本当に嬉しいことです。この度は、私めにこんな大役を任せてくださってありがとうございました、お嬢様、旦那様」
満足そうに、おもちゃ売りをしていた老人が呟いた。
執事服の人、お爺ちゃんでなくても良かったけど、
一番収まりが良かった。
脇道ばかりしてるから、そろそろ本題に入場させたい。




