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ピルグリム・クリスタリス  作者: 徘徊猫
幽明の灯火 前編・緋色ノ狂花
37/72

馬子にも衣装

ラル「服は個性をより表面に出す拡張要素だよ」

 葉「……」

ラル「また、集団に帰属意識。つまり、集団で

   同じ服を着ているから浮かないように

   みんなに合わせる心理が働くのかな?」

 葉「……かもね」

ラル「いや、前のことは謝るからさ。何なら

   美味しいケーキを奢るから……」

 葉(背後でサムズアップ)

ラル「……見えてるよ」

 通り過ぎてゆく馬車を一台ずつ目で追ってゆくが、止まる馬車はない。

 [……本当に来るの?]

 「……大丈夫だと思うよ」

 ボソボソと会話をしながら、少女たちは待ち合わせの場所で待っているのだが、どの馬車なのか皆目見当もつかないため、棒立ちと変わらない。


 「あの馬車は良い馬車だと思う」

 少女の横にいるリリスは、途中から馬車の観察に移っている。なお、リリスが見る馬車は一目で分かる派手さはないが、良い木材を使っているのか艶みたいなものが違う気がする。

 [何か、近づいてきていない?]

 「いや、気のせ……いだったら良かった」

 私たちのいる道の端にとまり、中から女将とマスターが出てくる。


 「おお、ゆかりくん。流石は店の看板娘、いつになく輝いて見えるよ。そちらにいるのが君の妹さんか? ところで、お姉さんの方は…………」

 周囲を見渡そうとするマスターをノールックで肘を入れて、

 「あんたは聞いてなかったのかい! その子が辞退したから、仕方なくあんたを連れて行くんだ。全く、あんたがいるだけで狭いったらありゃしない」

 悪態をつきながらも、実際のところマスターは男性としては一般的な体型であり、馬車には余裕で収まる。


 「それにしても……はぁ、ゆかりちゃんは給料を全て妹に注ぎ込んでるのかい? 正直、一番浮いてるよ」

 リリスは言わずもがな、女将も華やかなドレスを身にまとっている。因みに女将は少しゆったりしたものを着ているため、今は女将というよりスナックのママさんかもしれない。

 「そうですかね、着れるもので一番のものを選んだつもりですが」

 リリスと同じ黄緑色の服のはずなのに、少女から漂う雰囲気が緩過ぎる。

 「これを羽織りな、少しは見れるようになるから」

 馬車の中からカーディガンを取り出して、渡してくれた。

 「良いんですか?」

 「私が招待したんだ、その客がしっかりとした服を着てなきゃ、責められるのは私だよ」

 「うん、おかっ……お姉ちゃん似合ってるよ!」

 説得に負けて、カーディガンをドレスの上から羽織る。いつもどこか肌が晒されてるので、暖かい。


 「良い子じゃないか。じゃ、これから頑張って働いてもらうよ!」

 「はい!」

 全員が女将の後をついて、馬車に上がってゆく。


 「捕まったか? よし、出発だ!」

 元々座っていた御者の人の隣に座り、号令をするマスター。マスターの服装は女将と違い、見習いの執事のようにも見えるが、御者の人の方が余程執事に見えた。

 圧倒的に服に振り回されているマスター。

 服を着こなす女将、

 服を余裕があるくらいは与えられたリリス、

 本当はいつもの服以外、着る服を選ぶのが億劫な少女。

 ついでにおめかしは好きだけれど、

 人形なため、表に出れない琥珀。


 マスターは普段バーテンダーの服で似たものを着ているのに、一番垢が抜けない。

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