馬子にも衣装
ラル「服は個性をより表面に出す拡張要素だよ」
葉「……」
ラル「また、集団に帰属意識。つまり、集団で
同じ服を着ているから浮かないように
みんなに合わせる心理が働くのかな?」
葉「……かもね」
ラル「いや、前のことは謝るからさ。何なら
美味しいケーキを奢るから……」
葉(背後でサムズアップ)
ラル「……見えてるよ」
通り過ぎてゆく馬車を一台ずつ目で追ってゆくが、止まる馬車はない。
[……本当に来るの?]
「……大丈夫だと思うよ」
ボソボソと会話をしながら、少女たちは待ち合わせの場所で待っているのだが、どの馬車なのか皆目見当もつかないため、棒立ちと変わらない。
「あの馬車は良い馬車だと思う」
少女の横にいるリリスは、途中から馬車の観察に移っている。なお、リリスが見る馬車は一目で分かる派手さはないが、良い木材を使っているのか艶みたいなものが違う気がする。
[何か、近づいてきていない?]
「いや、気のせ……いだったら良かった」
私たちのいる道の端にとまり、中から女将とマスターが出てくる。
「おお、ゆかりくん。流石は店の看板娘、いつになく輝いて見えるよ。そちらにいるのが君の妹さんか? ところで、お姉さんの方は…………」
周囲を見渡そうとするマスターをノールックで肘を入れて、
「あんたは聞いてなかったのかい! その子が辞退したから、仕方なくあんたを連れて行くんだ。全く、あんたがいるだけで狭いったらありゃしない」
悪態をつきながらも、実際のところマスターは男性としては一般的な体型であり、馬車には余裕で収まる。
「それにしても……はぁ、ゆかりちゃんは給料を全て妹に注ぎ込んでるのかい? 正直、一番浮いてるよ」
リリスは言わずもがな、女将も華やかなドレスを身にまとっている。因みに女将は少しゆったりしたものを着ているため、今は女将というよりスナックのママさんかもしれない。
「そうですかね、着れるもので一番のものを選んだつもりですが」
リリスと同じ黄緑色の服のはずなのに、少女から漂う雰囲気が緩過ぎる。
「これを羽織りな、少しは見れるようになるから」
馬車の中からカーディガンを取り出して、渡してくれた。
「良いんですか?」
「私が招待したんだ、その客がしっかりとした服を着てなきゃ、責められるのは私だよ」
「うん、おかっ……お姉ちゃん似合ってるよ!」
説得に負けて、カーディガンをドレスの上から羽織る。いつもどこか肌が晒されてるので、暖かい。
「良い子じゃないか。じゃ、これから頑張って働いてもらうよ!」
「はい!」
全員が女将の後をついて、馬車に上がってゆく。
「捕まったか? よし、出発だ!」
元々座っていた御者の人の隣に座り、号令をするマスター。マスターの服装は女将と違い、見習いの執事のようにも見えるが、御者の人の方が余程執事に見えた。
圧倒的に服に振り回されているマスター。
服を着こなす女将、
服を余裕があるくらいは与えられたリリス、
本当はいつもの服以外、着る服を選ぶのが億劫な少女。
ついでにおめかしは好きだけれど、
人形なため、表に出れない琥珀。
マスターは普段バーテンダーの服で似たものを着ているのに、一番垢が抜けない。




