輝く汗、湧き上がる闘志
葉「人となりって、結局見ないと分からないよね」
ラル「葉が言うとー、説得力がないよー」
葉「良いわよ! 私の目はどうせ節穴だから!」
ラル「……そんなつもりで言ったんじゃないんだけど」
「『勇者』とは、…………一体どんな人なんですか?」
「あー、知らない? まあ、最近の子は知らなくても無理ないかもね」
既に閉店した店内で、少女と先輩はテーブルの片付けをしていた。ただし手は止めず、汚れが残らないように丁寧に拭いている。
「勇者っていうのは、世界を守る守護者のことよ。この国の偉い人が才あるものを見繕って、称号として与えるの」
「そんな称号に意味があるんですかね? そもそも、勇者という言葉は勇気ある者の意味ですよね」
世界を守るのなら一人に称号を与えるより、もう勇者軍団で良いのではないのか。それではパッとしないから、駄目なのか……
「いや、私もくだらないと思うわよ。なんせ、今回の勇者は年端も行かない女の子だそうだし。全く、上には変態しかいないのかしら」
「変態って……」
思った以上の辛辣な言葉に唖然とする少女。
「いや、どうせ上にいるのなんて、嫌な汗をギトギトと垂らして、身の丈に合わない服を着た小太りのおっさんよ。同じ小太りなら、この店に来る客の方がよほどマシね」
「えぇ……それは偏見なんじゃ?」
少女は良心が苦しんだのか、何故かフォロー側に回ってしまった。
「いや、絶対そうよ。前聖王様がいた頃の方が百倍良かった! 私が生きてこられたのも、当時の炊き出しで食い繋いでたからだし」
少なくとも、見た目が内面を表す訳ではないが、先輩にとって素晴らしいと思える聖王より何段も酷い統治を行う人が汚れて見えるのだろう。
「ははは、統治って難しいでしょうから……」
少女は困ったように笑うしか出来なかった。
◇
店を上がろうと女将を探すと、女将は難しそうな顔をしながら手紙を見ていた。
「どうしたんですか、女将さん」
「いや、何でも……」
言葉を続けようとして、女将は再び手紙を広げた。
「ゆかりちゃんは王都に行ってみたいと思うかい?」
「いずれ訪れたいと思っておりますが、何でしょうか?」
女将が広げた手紙を少女に渡すと、このような文章が書かれていた。
『親愛なる妹よ
元気にしていたか? あの男に手酷く扱————(以下略)
我が妹のことだ、あの噂は耳に入ってるんだろう。私も聖都に住む民の一部として勇者の披露宴に参加するつもりだ。良ければ、君も招待しよう。
もう君の店もここまで噂が届くほど有名になった。偶にはこちらで家族全員集まるのも悪くない。実家帰りのついでに、君の店を知らせる良いきっかけとなることを祈っている』
以下略が割と長い。女将を見ると、深々とため息を吐いていた。そして、よく見ると端っこの方に追加で記されている。
『P.S.そろそろ王都に店を立ててもいいんじゃないか? 是非そうした方がいい。土地は広く、一等地に置けばきっと繁盛間違いなしだ! でも、あの男をバーテンダーにするには勿体ない。是非とも、荷物運びを————(以下略)』
途中で手紙を閉じ、読むのをやめた。
「女将さんの兄を装った、マスターへの嫌がらせですか?」
「いや、これでも旦那を認めてるんだよ。どうせ、夜にお酒を飲みに行けば、肩を組んで酔っ払うからね」
随分と個性的な家族だな、と若干気圧されてしまう。
「確か、ゆかりちゃんを入れて三人だったね。この程度なら許容範囲だろうし」
「ええっと、女将? 私まだ行くって……」
「あら、行かないのかい。でも、王都は入る手続きだけでかなり手間なんだけどね」
「給料! 給料は出ないですよね?!」
「そのぐらい私から出すよ。何たって、宣伝にぴったりの人材じゃないか」
まだ見ぬ儲けに舌舐めずりをする女将、少女も悪くない話だと思ったのか、乗っかることにした。
「行きます! 行かせていただきます!」
その様子を外から見ていた先輩は、そっと息を潜めて帰った。
凄く皮肉なタイトルに見える。




