風の前の宝物
水「影って、寝坊助だよね」
影「……何か違和感が」
水「え? ……! 寝坊助やんな!」
もぞもぞと、少し肌寒い外気防ぐ毛布を深く被る。しかし、少女は違和感に気付いた。毛布より暖かな感触が仰向けに寝る少女の上から感じる。
「…………リリス、もう朝だよぉ」
「へにゅぅ……」
嗚呼、もう起きなくて良いのではないだろうか、という顔をした少女を琥珀が叩き起こした。
[やっぱり、弛んできてるよ]
「そう? ゆっくり出来ることは良いことだと思うけど」
朝食を摂りながら、少女たちはそんな会話をする。因みに朝食は青々としたサラダだ。少女は気にしてない様子だが、リリスは少し辛そうだ。
「お母さん、これ苦い」
「だから言ったのに。あとは私が食べるから、リリスはこっちを食べておきなさい」
仕方がないというように、事前に用意していたベリーや、トマトが色取り取りのサラダを渡す。
リリスは眉を下げていたが、口にサラダを持っていくと美味しそうに頰を緩ませた。
その様子を少女が微笑ましく見ているところに、再度琥珀が呆れた目を向ける。
[…………私の親と同じ目をしているよ。私としては、君が子離れ出来るかどうかの方が心配だよ]
少女も心の底では心当たりがあるのか、複雑な顔をして反論した。
「流石に、……うん。この子が自立できるまでだよ、それ以上は私が足手まといになるから」
その言葉を聞いていたのか、聞いていなかったのか、リリスは不思議そうに首を傾げる。
「なに? あっ、お母さんにもあげるっ」
リリスは果実をフォークに刺して、少女に向ける。
少女はちらっと琥珀を見るが、暫し瞑目したあと、口を開ける。
[本当に、大丈夫かな]
微笑ましい光景であるが、それを許すことが出来ない立場にいる琥珀は少し困った顔をしていた。
◇
「今日は何をしようか?」
「んー、えっとね。うんとね、…………なんだろう?」
沢山考えていたのだろうか、指を折って数えているが、思い出せないようだ。
「じゃあ……あっ、忘れるところだった」
先日から背嚢に入れたままのものを取り出して、リリスに渡す。
「何これ、開けて良いの?」
少女が頷くと、箱を包む紙を丁寧に取り、箱の蓋を開ける。中にある美しい人形に目を奪われながら、自然と感嘆の声が漏れる。
暫くの間、人形の髪を梳いたりしたあと、我に帰ったのか少女の方を向いて満足げな表情を見せた。
「ありがとう、お母さん! 大好きっ!」
暖かな日々は早く流れてゆき、リリスが少女の胸元辺りまで成長したとき、ある報が少女の耳に入った。
日常回、次からまた進むかもしれん。




