幽玄屹立
影「……長い睡眠は、逆に体に酷に感じる。
なので、睡眠時間は一定にしたい。けど、
休日は思わず夜更かししたり、二度寝してしまう」
案内された先には艶やかな黒髪を持った妙齢の女性がいた。その頰は青白く、寝台の上に座っている様は病人のように思えるがその背筋はピンッと立っていた。
何より、私たちが来たことに気付いたのか、それまで閉ざされていた、煌々と輝く緋色の瞳が私を貫いた。
「…………そちらの方は?」
声もまた凛として、瞳と同じように翳りは見当たらない。軽く靴屋の店主が私のことを紹介すると、小さく頷いた。
「私の名前は…………知らないほうが貴女のためでしょう。呼ぶときはメーテールとでも、いや言いにくいですね。適当に呼んでください」
何故かこの時、メー○ルという名前が思い浮かんだが、頭を振り、私から尋ねた。
「…………先に言うけど、国の面倒ごとには首を突っ込む気はないよ。革命とか、そういう運動に加わる気がないから」
「ええ、それは結構ですよ。……もし滅びたのならそれこそ天命。それより、貴女に依頼したいのはこの子を隠れ家まで送ってほしいということです」
つい気を取られて、彼女が抱える赤ん坊を見落としてしまっていた。
「それはその隠れ家に送るだけでいいの?」
「ふっ、貴女は優しいのですね。ええ、そこに住んでいる老婆に預けてくれれば」
その様子を見ていた靴屋が突然声を荒げて、彼女に詰め寄る。
「お前も逃げろよっ! 確かにもう…………だが、少なくともここにいるべきじゃない」
「スートル、誰かがここで犠牲にならなくては……誰がこの内乱を形良く収めることができましょう。一番上手く収める方法ではこの子も犠牲になる。王家の力もまた、弱体化の一途を辿るでしょう。なら、私の犠牲は良い具合に力の関係を調整できる。これは私が覚悟していた運命の一つ。貴方も逃げなさい、巻き込まれる可能性が万が一にもあってはなりません」
スートルと呼ばれた靴屋は無念そうに唇を噛む。
「ちっ、だが俺はここにいる。兄の形見をむざむざ殺させてたまるかよ」
その様子を少し眉が動くだけで、すぐに私に向き直った。
「とにかく、私の娘を貴女に託します」
「…………いいけど、この子の名前は?」
「いえ、まだありません。貴女が付けてあげて下さい。それがこの子にとっての幸せに続く」
少し悲しげに、しかしそれが良いのだと彼女は健やかに眠る赤ん坊に微笑んだ。
いや、書いてる途中に名前がメー○ルに似てるなぁ
って、思っただけだよ。でも、メーテ○の名前の由来
と無関係という訳でもない。
メーテール=母親という意味。




