運命の分岐点というならば
影「運命はどんな形をしているのだろう?
糸だろうか、電車のレールや、風の流れ
かもしれない。どれも、過去から今に続く
という一点が、共通している」
それはある靴屋に訪れたときのこと。
「お兄さん、この仮面について知らない?」
「…………あんた、旅人か?」
靴屋の主人は私の問いに答えず、逆に尋ねた。
「うん、そうだよ。……この仮面について何か知ってることがあれば教えてほしい」
この時は遅々として進まぬ情報集めに嫌気が差してきたころだ。
「多少なら、それについて分かるかもしれない。ただ条件がある。この質問と俺の頼みを一つだけ、一つだけ承知してくれたら話してやる」
魔族に善良な者たちが沢山いても、稀に騙して襲おうとする輩がいる。しかし、擦れていた私には、もし騙されていたら腕一本くらいは折ってやろうか、という考えが頭にあったのですんなり頷いた。
「で、何?」
「……あんたはこの国をどう思う?」
少し予想外の質問に真面目に考えて、答えた。
「あまり詳しくないから私の予想みたいなものだけど。外はまだ取り繕えてる、いや正確には外の警備にあたっている魔族たちは義勇兵みたいなものだと思ってるから外の壁はまだ保たれている。でも中は大きな柱がいなくなった影響からか非常に危うい」
先程上げた犯罪の例がかなり頻繁に起こることだ。国とは乱れたところが国民たちの心理にまで影響していく。犯罪の場合はそれが顕著に現れやすい。
「前魔王だけ権力が強かったのからか、いなくなったことで国の方針を示してくれる存在がなくなった。だから、中で違う方向に進もうと分裂してゆく。邪神との戦いの警告があった筈なのに、対策できなかったのが、仇となっている。いや、想定はできても、それを踏まえて実際に行動できるかは別か」
「それで?」
これまでの前提から、総合的に判断するとこの国はこう思わざる終えない。
「良くて属国、悪くて民族浄化が落ちかな」
立て直せるなら、既にその兆しが見えてもおかしくない。しかし、その兆候が見えないなら、その国は攻め滅ぼされるのが運命だろう。
そして、魔族という特異な立場にいる以上、差別は免れない。いや、仮にも大国だったからこそ、魔族が差別されることはなかったのだろう。
「ふむ、であんたはどうするんだ?」
「別に……少し見て回ったら、聖王国のほうも少し見て、この世界から離れる」
この世界に来て、最悪な思い出しかないのだから、別の世界に渡りたいと思うのも当然だった。でも、私は未だにここにいる。きっと、ここが分かれ道だったように思う。
「そうか、ならついて来てくれ」
その言葉に従い、私は店の奥へと足を踏み入れた。
擦れた主人公降臨!




