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ピルグリム・クリスタリス  作者: 徘徊猫
幽明の灯火 前編・緋色ノ狂花
29/72

酒場を踊り、帰路に向かう

 こうして、マスターは陰に埋もれてゆく。


 出来心・可愛い子に囲まれる城を築きたい

 →結果・女将が全てを仕切り、慕われる

 「女将さん、ポテトサラダと串焼き、ベーコンとキャベツ和えを一つずつ」

 「全く、せっかちな奴らだね!」

 店が開店した瞬間から怒涛の勢いに厨房は出し惜しみなしで、対応に追われていた。


 「はい、ポテトサラダと串焼き。それと、ビールです!」

 「おう、ありがとな」

 「すまん、こっちの注文を!」

 「はい、承りました!」

 「ビールはまだか、マスター」

 ひっきりなしに来る客を少女と先輩たちで捌いてゆく。特に少女はほかの人より多めに運びながらも、その足取りは崩れない。


 名ばかりマスターも駆り出されてもなお、やっと回る店の事情など客には関係なく、お目当ての少女の姿を見るだけでは飽き足らずちょっかいを仕掛けてくる。

 「嬢ちゃん、名前はなんて言うんだ?」

 「別嬪だなお嬢さん、今度飲み行かないか。って、ここが酒場だけどな。はっはは!」

 絡んでくる客には動き回りながらも、応えていく。

 「ゆかり、と呼んでください」

 「そうですね、存分にお飲みになってください」

 そんな感じで適当に返す中、少女に手を出そうとする輩もでてくる。

 しかし、伸びる手を華麗に躱しながら踊るように動き、客を魅了してゆく。


 カウンターの方ではマスターがビールを取り出して、魔法で冷えたものを提供している。

 「ねえ、マスター。あの子なんだい?」

 「昨日雇った子なんだが…………思った以上に凄まじかったな。ところで新商品があるんだが食べるか?」

 マスターは女将と交友関係にある常連の女性にキャラメルソースをかけたお菓子を出す。

 「…………美味しいわ。前から思ってたのだけど、この店に女性客が中々定着しないじゃない? まあ、むさっ苦しいおっさんどもが毎度可愛い子目当てに占拠してて入りにくいってのもあるけどさ」

 「何だよ、……いや始めは出来心だったんだ! そしたら、女房が人脈や何やらで集めて……しかも、始めは乗り気じゃなかったのに、どんどん積極的に」

 「ああ、男って馬鹿ね」

 世の全てには当てはまらないと思うが、少なくともマスターにはお似合いの言葉なのかもしれない。


 ◇


 「ふふっ、今日はゆかりちゃんのお陰でかなり儲け……こほん、助かったわ。良ければまた来てね」

 「はい、暫くここに滞在するのでお世話になります」

 女将は儲けを計算し、給料を麻布に詰めて渡した。


 「こんなにもらって良いんですか?」

 「ええ、今日は大盛況だったからね。それに、あのお菓子のレシピのも入ってるから、それぐらいが妥当だね」

 「そうですか、ありがとうございます」

 そんな感じで酒場から上がる頃には既に暗く、静寂な夜の中で一日の顛末を日記に記した。


 ◇


 そんな日々が数日流れて、街では少女の事を知るものが少なくなってきた頃。

 「いらっしゃい、何か買うのかい?」

 杖をつき、腰が曲がったりお爺さんが店番をする店に少女は訪れていた。

 「家に居る妹にプレゼントをしたくて、何か良いものはありますか?」

 ただ無言で笑うと、お爺さんは店の奥に歩きながら、手招きした。


 「お嬢ちゃんは最近噂で聞く子かい?」

 「そうかもしれません、…………そろそろ噂が消えても良い頃のような気がします」

 ほっほほ、とお爺さんは笑い、一つの箱を少女に渡した。

 「お嬢ちゃんが求めるものかは知らないが、うちにあるの中ではそれが一番での。この店に来るまでに色んなところを巡ったんじゃろ?」

 「はい、始めは本が思い浮かびましたけど、流石に高価で買おうと思えませんでした。料理は大抵腐ってしまいますし、服はなかなか良いと思えるのが見当たらなくて」

 「それで、この人形屋に?」

 「はい、それ以外思いつかなくて」

 箱を開けると、精巧に作られた可愛らしい金髪の人形が入っていた。服は貴族が着るような服に見立てられた…………ゴスロリという方が分かりやすいかもしれない。


 「これ、高いですよね?」

 申し訳なさそうにお爺さんに尋ねる。しかし、お爺さんは首を振り、話し始めた。

 「元々、ここら一体を取り仕切る豪商の娘が持っていたものでね。この街では有名な話なのじゃが、長く引き止めてもいかんし…………その娘がこの人形やら、父親から与えられたものを全て売って自身の商売の資金にしたんじゃよ。じゃが、そのときこの人形を買った者がその後、何故か捨ててしまっての。流れに流れて、ここにあるからタダでもいいのじゃが」

 「いいえ、しっかり払わせてもらいますよ」

 買う側が値を上げ、売る側が下げるという珍妙な光景のあと、渋々適性値よりかなり安めで手に入れた。


 そんな充実した日々を終えて、少女は帰路に着いた。

ラル「……昔々、金髪の人形が捨てられたー。

   人形は捨てた人を恨みー、ワン切りを始めたー」

 葉「ただの迷惑電話の話じゃないかな? 人形の裏に

   ヤのつく自営業の方がいそうね」

 水「何や、怖い話ちゃうんか……てか、陰湿やわ」

 影「ラルの話は話し方でそもそも結局台無しになってる

   気がする……」

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