異国の食を伝える者
水「でも、影は料理作るときは楽しそうやよ?」
影「私は作ることが楽しいとは思わないわ。
水や、……お義父さんが喜んでもらえるからよ」
水「じゃあ、もっとおかわりしてもええな!」
影「自重はしなさい!」
「もう終わったのかいっ? そう、なら時間があるから何か一品自信のあるものを作ってみな」
一連の仕事を済ませたら、女将から任された。因みにマスターさんは? と、少女が聞いたら、
「主人はバーテンダー担当だから、この店の女将は私だよ」
と言われた。どうやらマスターは尻に敷かれるタイプらしい。
◇
こういう酒場に合う料理は何だろうか。
「塩っぽいものか、それとも逆張りの甘味」
醤油がないので、塩っぽい方は難しそうだ、と唸る少女。反して、甘味はまだ良さそうと思い、ならそちらの方が良さそうだと早速取り掛かる。
まずお土産用のラスクを少し取り出す。
「先輩、少し聞きたいのですが」
「ああ、確か女将から何か言われてたね。いいよ、でも代わりに作ったの食べさせてね」
先輩と取引をして、牛乳とバター、そして砂糖を手に入れる。それを溶かして、混ぜて…………
「先輩、よろしくお願いします!」
「えっ、出番早くない? 良いけど、せいっ」
そのソースを先ほど用意したラスクにかけ、魔法で冷やしてもらえば出来上がり。
「女将さん、出来ました。先輩に頼ってしまいましたが、良い出来ですよ」
達成感から満足した表情で少女は語る。
「まあ、良いわよ? でも、私はてっきり…………とにかく、予想外ね」
「女将、別に良いじゃないですか。美味しそうですよ?」
「そうね、じゃあ食べさせてもらうわ」
サクッとラスクを一口大に割ってから、キャラメルソースが掛かった部分を食べる。
「意外としょっぱいのね。うん、これは早速店に並べても良さそう」
「あー、美味しい。手伝った甲斐があったわ」
美味しそうに食べる二人に少し気まずげな表情の少女。
「どうしたの?」
先輩が何気なくその様子について問う。
「……確かに美味しそうに食べてもらって、嬉しいです。でも、自分が偶々知っていたもので……かなり簡単に作れるものなのに、そんな評価されていいのかな、って」
元々はこの世界にないかもしれないものだ。作ってるときは何も感じなかったが、作ってる途中に本当にそれで良いのかという罪悪感が出てしまった。
その言葉に女将が少女に視線を向けながら話し出した。
「要するに、貴女のいたところではメジャーなものなのね。それを広めるのが自分で良いのか、と。そこに理由を持ち出すのは少し嫌なのだけど、聞く?」
「お願いします」
少女の返事に頷くと、語り始めた。
「文化というものは確かにその地域に合わせて発展していくわ。でも、外との交流を閉鎖した箱庭ではいけないの。もし閉鎖したら、箱庭の水を断たれるかもしれない。巨大な箱庭なら内部が少しずつ枯れながらも長く存続するかもね。だから、交流は大事なのだけど。一先ず、私が話したいのは交流をする文化の伝道者が誰なのかという事。何だと思う?」
「外との交流をする職業…………外交官?」
はっ、と女将はその答えを笑い飛ばす。
「外交官一人が幾らやっても、伝わるのは一部の上流のみ。上流なんて、最も川幅の狭い場所でしょ。下流に流れるかどうか、それじゃあ分からない。私が思うに、一番文化を運ぶ伝道者にとして相応しいのは商人よ」
「それが、どう関係するんですか?」
未だ浮かない顔をする少女が働きぶりと違い、年相応の姿が見てとれて笑いながら。
「貴女のこの料理、というよりソースね。確かに画期的なものだと思うわ。だからこそなのか、自身が開発した訳ではないから、簡単に作れるから自信が持てない。
でも、商人だってやる事はそう変わらない。新たなものを、珍しいものを交易し、お金を儲けるだけよ。商人は見栄を張って、商品を精一杯の誇張で売る。その付加価値と、この料理を広めた店や料理人が一時的には有名になるかもしれないけど、どうせ何処かのホラ吹きが噂を歪めるわ。吟遊詩人や旅人が流す噂はいずれ脚色される。
まあ、それでも罪悪感を持ってしまうのは好きにすれば良い、もし良かったら同じようなものを提供してね」
「はいっ、女将さん!」
きっと女将の本心は最後の一言だろう。でも、それを伝えることを嫌がったのは恐らく店のためだから、と無理をしなくて良いと言いたかったのかもしれない。
女将さんが言いたいのは上記通り。
内容をもっと分かり易く言うと、
少女は作ったキャラメルソースが少女自身が発明したものとして扱われるのは申し訳ないと思っている。
確かに、貴女が開発した者ではないのかもしれない。
でも、新しいところに伝えた人がその場で有難がられ、その人の事を褒め称えるのは良い関係を結びたいから。
どちらにせよ、この世界では情報があまり残らないし、遠方に行けば行くほど歪んでいく。
一時の商売として使うのに大した使命もないから罪悪感を感じるかもしれないけど、商売だから仕方ないでしょ。
と言う感じかな?
女将が理由を言うのを嫌がったのは結局のところ、この論の組み立て方だと少女が断りにくい心境を生み出すかもしれないから。
女将からしたら、別にどちらでも良かった……
つまり、女将は男前だった。
なお、キャラメルは明治時代に生み出されたもの。
時代の先取りだけど、中世にはなかったのか……
砂糖問題は無視して、駄目だったらテンサイ的な植物が育てられていたとか……ね?
つまり、こんな風に言い訳ばかりする作者は……
ジェンダー議論は、気にしない派であろうと思ってる。
後書きが長いけど、男前とか、女々しいとかはその様子を表すものであって、男or女だからとか関係ないし。




