遠方より聞こゆる大地の嘶き
早速、新章開幕
死とは何か、最近考える事が多い気がする。
初めて私が敵を殺したとき、それに怯えなかったのは私にまだ心の穴が多く空いていたから。
今でも、敵なら容赦せず倒すことは出来るし、襲われても邪神とかの例外を除けば生き残れる自信はある。
ただ師匠が私に仮面を残して消えたあの日、寂しいと感じた気持ちは何と言うものだろうか。
師匠が居ない不安は背中を押してくれる頼もしさを失ったことや、先を先導してくれた背中が見えなくなってしまったからかもしれない。
私は、私の道を定めなければならないのだろうか。
◇
人が寄りつかないような森林の奥。大きく隆起した壁に扉が一つ。そこから少女が扉の中を振り返り、まなじりの下がった目で見つめた。
「リリス、私は出稼ぎに行ってくるから良い子にするんだよ」
ぽふん、と少女の胸元に飛び込む影を優しく受け止める。
「お母さん……行かないで」
少女は少女の腰よりも背の低い幼い少女、リリスの頭を撫でる。
「こら、私は君のお母さんじゃないの。せめて、お姉さんって呼んでね?」
嫌だと意志を示すように少女に頭をぐりぐりしている。
「…………琥珀、任せるよ」
[良いけどさ、わざわざ働かなくても良いんだよ?]
撫でる腕はそのまま、少女の顔が少し暗くなる。
「働かざるもの食うべからず、とも言うから。それに、私が私はを知るために必要だと思う」
疲れたのか、少女の服の上にある外套を掴む力が弱まり、お姫様抱っこで寝台にリリスを載せる。
[……じゃあ、いってらっしゃい]
「いってきます……あ、保存食は倉庫にあるから」
手を振るのをやめて、向こうが扉を閉めるまで、少女はそちらを見つめていた。
◇
普通の人なら数日かかる道を一日で踏破し、少女は良さそうな場所を探して焚き火を付けた。ここは旅人の休憩地のような場所で、少し遠くには同じように野営する人々がいる。
「今日は……はぁ、連れてけるものなら連れて行きたいな。書く内容もないし、リリスのプレゼントは何にするか考えよう。何なら喜ぶかな」
リリスを連れてゆくには色々面倒が伴う。いや、その程度なら気にするに値しないが、魔王国と緊張状態にある聖王国に入るのは流石に不味い。
「…………うん、着いてからにしようか」
少女は周囲に一瞬視線を巡らせたあと、息を吐いて緊張を抜く。
どうやら山賊の類ではなく、ただの監視の目だったので余計な事を口に出さないようにすれば安心できる。逆にいえば、目を付けられないように気をつけなければいけないのだ。
◇
小さな街に着けば、それなりに活気がある。露天からは香ばしい匂いが漂ったり、怪しくも面白そうなものが売っていたりしている。
「すみません、串を一本下さい」
「おう、ちょっと待ってくれな」
適当に愛想の良さそうな店主のいる露店に向かい、串を注文し、作っている途中に店主が話しかけられた。
「お客さん、エッケは初めてかい?」
「いえ、今までに数回ほど。出稼ぎですよ」
相手に合わせて少女が微笑めば、店主は機嫌を良くして調子良く話し始める。因みに、エッケとはこの街の名前だ。
「こんな別嬪さんが世の中に埋もれてたなんてな。こりゃ、オマケだ。もう一本受け取ってくれ」
「そんな、申し訳ないですよ」
「いいんだよ、俺の厚意だと思って受け取ってくれ。最近は何だかきな臭いからな、偶には良い事があっても良いわけよ!」
「では、ありがたく」
そんな一連の会話が終わったあと、店主の大声から注意を惹きつけられていた周囲が一斉に店へ殺到する。
少女は振り返らず、店主の手腕に思わず苦笑が漏れた。
「……互いの歯止めは少しずつ削れているのか」
少女が働くのは何もお金を稼ぐためだけではない、最近の情勢を確かめるためだ。周囲を軽く観察すると、荒くれ者が大通りを歩いたり、子どもが表に出て遊ぶ姿が見れない。
「気にしても仕方ない、今は働こう」
少し冷めた串を食べ切り、よく人が集まる酒場に足を踏み入れた。
ラル「んー、足を運んでみたら中々賑やかだねー」
水「そうやね。あんた、葉ちゃんの知り合い?」
ラル「そーだけど、何してるのー?」
水「そりゃ、水遊びに決まっとるで。ほれ、……なにっ!」
ラル「ふはは! その程度でこの私を倒せるものかー」
影「打ち水で良くそこまで楽しめるね」
夏はまだ始まったばかりっ!
追記:商人の会話について。
少女が露天の商人の何を賞賛したのかと言うと、大きな声と目立つ格好(例の服)を着ていた為に広告塔として軽く利用された。
目立たないようにしてたのは?
いや、意外と堂々としてると誤魔化せるでしょう(希望)
本当は美少女な少女自体が目立ってたという部分もある。




