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手繰る糸、天は無窮なり

 葉「……」

 影「そんな顔をしてどうしたの?」

 葉「……気にしないで、何でもない」

 影「そう? どら焼きあるけど食べる?」

 葉「食べる!」

 瞳をきらきらと顔をした少女は美味しそうにどら焼きを頬張った。

 とある少年と鍋を一緒に食べた少し後か、前か。時間という概念はきっとこの世界にはない。過去も、今も、未来もこの場所だけは変わらないままだろうから。繋がりも薄く、個々が好き勝手に過ごしてるこの場所では少しの変化程度は永遠に影響しない。

 「そういえば、琥珀ちゃんは面白いものを作ってたわね」


 ふと呟くと、バンッと扉が開かれる。

 「ちょっと、お姉ちゃん! 一体どういうことなのっ!」

 「琥珀ちゃん駄目だよ、ノックしないと。わたしだから良いけどね。それに、いきなり何故と聞かれても、お姉ちゃん分からないから」

 勢いよく開かれた扉から一歩ずつ、歩むにつれて琥珀の顔は翳ってゆく。


 「はぐらかさないでよ……、確かに私はお姉ちゃんたちに甘えてきたけど。瑠璃葉姐が私に頼んだ仕事、全部仕組んだことだよね? たぶん、あの唐変木をどうにか出来たとは思わないけど……何で、あの子まで巻き込んだのよ」

 ふっ、と微笑ましいものを見たように目を細めながら語り始める。

 「あの子には、琥珀ちゃんの護衛になって欲しかったんだ。わたしは手が離せないし、他のも頼むには手が足りない。念の為の準備は必要で……ともかく、琥珀ちゃんだけを残すのは不安だったから」

 せめて、家族だけは守りたい。あわよくば誰もを。

 しかし、そんな夢物語を紡ぐほどの力がわたしにはない。


 「じゃあ、記憶を消す必要なんてあったの? 何か抱えてたようだったけど」

 「そうだね、そうするしかなかったからかな。所で彼女には名前を付けた?」

 怪訝な顔をして、琥珀は横に首を振る。

 「だって、名前を付けたら元の彼女と反発しちゃうかもしれないじゃない」

 「そうだね、わたしはわざと反発するように……いや、元の彼と対になるようにしたんだ」

 少しずつ琥珀が話を理解すると驚きで目を大きく開けた。

 「お姉ちゃん……私はそれに賛同できないよ」

 「賛同なんてしなくても、……いいわ」

 口を真一文字にして何か言いたげな目を向け、しかしその後後ろを向いて去っていった。

走っていく妹の姿に手が伸びそうになるが引っ込める。


 「これで…………こほっ、少し悪化したかな」

 「愚妹、妹を泣かせておいて追いかけないの?」

 ちらりと声のした方を見ると、長姉がいた。

 「何か弁明しようとしても、言い訳しか思いつかないよ」

 「姉としてはお前を叱りたいけど……やめておこうか」

 「ありがとう、お姉ちゃん」

 その言葉を意に返さぬように、長姉はただこちらを見つめる。

 「…………意見は尊重する。けれど、取り返しが付くうちに決心するべきよ。今でも心は揺れ動いてるようだから。貴女が一番選びたい結末を選びなさいよ」


 「取り返しなんて……もう付かないよ」

 姉が去り、ぽつんと取り残された部屋で空を眺める。

 その目は何れ行き着く道を映しながらも、ただ憂いを帯びていた。

 よく話で女性の体に生まれ変わった男性が体に人格や、意識が寄せられる描写があるよね? さらに、まっさらな状態で初期状態が違えば違う道を選ぶだろうということ。


 これは性別による人格の形成なのか、

 それとも周囲の環境によるものが影響するのか。

 なら、上手く環境と肉体の条件を整えればいい。


 誤算がなければ、必然的にそうなるということ。

 そして二つが同時に存在するには……

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