暗明日記
影「水って、何気に字が上手いよね」
水「そりゃ、……お義父ちゃんが厳しいからなぁ」
影「そう? 優しいと思うけど?」
水「影には甘い、うちには厳しい。酷いわ」
影「勢いでも、怒られるような事をすれば当たり前だよ」
伽藍や老人、琥珀との温かな日々と、地底を這う者たちとの相手をする日々が交互に繰り返していた。
その度に少女は新たな事を学び、試行し、復習すると言う流れをひたすら、ひたむきに励む。
途中から少女は自分の考えを記録する日記を綴り始めた。楽しかった事、嬉しかった事を忘れない為に。
◇
日記は何処から書き始めるのが良いのか。こんな疑問を書くことは恥ずかしいけど、きっとこの日記が初心を思い出してくれると思う。それに、今の私には私を証明するものはないから。
ここに書き始めよう。
洞窟○日目
ふと、気になって琥珀に依代について詳しく聞いた。何でも、琥珀の姉の親友が態々手作りで渡したものらしい。手作りでできる範囲を超えてる、と言うと『神様にできない事があると思うの?』と返された。でも、琥珀にできるか尋ねると、『できないわ!』と堂々と返された。神様とは一体?
休日○日目
お爺さんの話は興味深いと思う。
例えば、ここに来るまでに訪れた場所の話。気候や、土壌、民族性などから独自の文化の話が聞けたときは夜遅くまで粘ってもらった。流石に、最後は『ガキはさっさと寝ろ』と呆れた声で言われたので、渋々引き下がった。確かに、寝起きはあまり良くない方だと思っているので、明日の準備に差し障りがあるかもしれない。聞くなら、まだ大丈夫だから。
次はお爺さんの腰にぶら下げている鬼面について聞いてみよう。
洞窟○○日目
仮眠程度なら、警戒を怠ることはない。ただ安心ができないからか、やはり精神はかなり擦り減る。食事のときも気が抜けないので、少し空腹を感じるときのこの匂いはテロだと思う。仕方ないので、口で呼吸するしかない。一応、匂い袋の中には長い時間強く残るものを入れているけど、この辺りから出ると逆に気付かれるのが問題だ。
気を逸らせるものを作るか、周囲に溶け込むしかない気がする。泥に塗れるという手があるけど、琥珀が嫌な顔をするのでできれば使いたくない。
一度試そうとして、琥珀を見ると覚悟を決めたように目を閉じて、両腕を水平に上げていたのは痛ましい光景だった。啜り泣く声も聞こえた気がする。
そもそも完璧な手段でもなかったから。
休日○日目
何となくお爺さんのことをどう思ってるのか、自身でもよく分かってなかったが、今日も話を聞いていると何となく分かった気がする。お爺さんは話を私の興味のあることを基礎として話してくれるけど、その内容の中には旅の心得や振る舞いなどについての内容も教えてくれるのだ。だから、…………『お爺さんは私にとっての師匠だね』と言うと、『儂は多少その辺りの知識があるだけだ。教えるなど、大層なものではないぞ』と返された。でも、私にとっては見習うべき『師匠』なのだと、そう心に留めておく。
そう言えば、次からは洞窟内を探索してみろと言われた。元々地図を渡されていたが、あまり足場や敵の巣があるところには近寄らなかったので、必然的に奥への道も選ぶことはなかった。一本の道だけ、そこまで危険が少ない道があるので、機会があるなら行くのも良いかもしれない。ただ奥には親玉がいるそうなので、気を張っていこう。
◇
そんな風に時間は過ぎてゆく。日記に書くことは日を追うごとに増え、それは少女はより世界を広く感じることができるようなり、自身がやりたい事を積極的にするようになった。
そして、最後の日は意外とすぐ近くに来るものだ。少女は小川のように一本の水流が流れる洞窟の手前まで足を踏み入れた。
何気に一章、そろそろ終わるかも
一章……好き勝手にやったなぁ




