絡繰人形の自律
ラル「人形はー、人形じゃないとー、いけないのー」
葉 「それはどうして?」
ラル「んー、それはねー。
……もし本物の仕組みと遜色ない形を作り、
それを依代としたとき、
違和感を生じないことは問題なのです。
抱えた自我と被る仮面が……
力を余計持つが故に不釣り合いになるのよー」
乾いた風だというのに、今ではそれなりに心地良く感じるのは心に余裕があるからだろうか。そんな様子でベットに座り、部屋の様子を眺めている少女は今まであったことの整理を終わらせて、立ち上がる。
筋肉痛のような痛みが全身を襲うため、やや壁沿いに回り込みながら扉に向かう。特に酷いのは右脚で、立っていなくても痛みが走る。
何とかリビングみたいな扱いを受けている部屋までやってきた。
「おはよう? って、いても良いのかな」
[時間的には問題ないと思うわ。にしても、随分と辛そうね。私が見てない間に無理したでしょ! いや、私が君の戦闘中は気絶したり、少し目を離してたのが悪いんだけど……でも、脚を庇うくらい酷い痛みがあるのなら先に言ってよ]
怒ったはいいものの、自身にあった過失によって口をもごもごさせている。
「四六時中注意を払うなぞできる訳ないだろうよ。それに、多少の無理をした価値はあると思うが」
予想外の事態に備えをしておけ、と暗に伝えつつ、せっかく無茶をして切り抜けた少女に不満がある物言いについて老人は尋ねた。
[それはこの子の肉体が依代になってなかったらね。精巧に作られたものとはいえ、この子の刀と同じ模造品よ。いや、敢えてその線で妥協しているものだから、肉体の再生はしないのよ]
「それでも、死線を経験することに意味はあった。どちらにせよ、幾ら筋肉だけを鍛えようと限度がある。なら、他に割く手間がなくなったと思うべきだが……その摩耗といえばいいのか、どう対処する?」
[多少なら治すというか、無理矢理くっつける事ができる。ただ我儘なのは百も承知だけど、無理はしないで欲しいわね]
暫しの沈黙が場を支配しようとする前に、両者の会話に置いてけぼりの少女が満を持して、会話に入る。
「あのさ、要するに無理を押し通し切るのは難しいってことだよね。…………でも、今はそこまで対処能力はないし、琥珀に迷惑をかけるかもしれないけど、いいかな?」
[……許可なんていらないわよ。私から頼み始めたことだから。はぁ、取り敢えず治しておくね]
ぽん、と軽く触れると少女が感じていた痛みが収まったのか、先程より表情が和らいでいる。ただ逆に難しい顔になっていく琥珀。
[何で足の骨を折ってるのよっ!]
「あー、あれと戦ったときに有効打を探していたから、強く蹴り上げたときにやってたみたい……」
頬を掻き、申し訳なさそうに見つめる少女に、琥珀は仕方がないという風にため息をつく。
「ふむ、参考になると思って体術を見せたが……お前は武具をより上手く使うことを意識してもらう方が大事そうだな。数日は休みの予定だったが、それまでに治せるか」
[治すだけなら一日もあれば充分よ。ただ触れてる必要があるから、肩を借りるわね]
「うん。でも、休みの間は何をしたらいいんだろう」
少女は目を閉じ、自身のしたい事を考えて思いついた。
「じゃあさ、お爺さんの話をまた聞きたいな」
そう言って、無邪気に笑った。
前書きのことに少女は含まれてません。
いや、そもそも依代を使うのはどんな存在でしょうか?
少女はあくまで、その絡繰の体に宿ったものの一つ。
この依代は見方によってはVRのそれに近いです。




