白狼、闇に隠れて息を潜める
影「……クミン、ターメリック、ガラムマサラっと」
水「何作っとるん?」
影「ごろっと野菜カレー」
カレーはごろごろ具材派!
スープに溶け込んだ野菜も悪くないのかな?
美味しければ万事解決!
「……流石に、そろそろきついかな」
流れ落ちる汗は不快な湿気か、それとも冷や汗かもしれない。日の光のない洞窟内は一秒であっても、それは永遠のように長く、心を少しずつ蝕むには充分なほど。
「匂い袋……もとい料理の残りの方も少ない。少し仮眠くらいなら何とかとれたけど、熟睡しても良かったかな……いや、そこまで油断はできない」
相手が匂いに引き寄せられても嗅ぎ分けられないのなら、強烈な匂いの中に紛れ込むことが出来れば良い。
因みに使ったのは容器に詰めたスープ。胡椒も取り寄せられていたので、刺激的な匂いが辺りを漂っていた。当初、少女が胡椒を見たときは少し贅沢ができる程度に考えていたが、思わぬところで役に立った。
しかし、今はそのスープが蹴飛ばされていたり、食べられていたり、はたまた無惨にも粉々に砕けていたりもする。
「天幕は片付けたし、準備はできた。幾ら密閉された空間だからといっても匂いは少しずつ薄れていくし……始めよう」
足場を照らす仄かな灯りを手に、少女は日の目を見るために静かに動き出した。
幾ら匂いで見分けられなくても、気配に気付かれれば元も子もない。
闇に紛れ、隙をついて掛けてゆく様はまるで森林を駆ける狼のように警戒をしながらも、着実に進んでいた。
しかし、何処までも同じ調子では進めない。進行方向に既にいたのか、一体がこちらに向かってくる。
「以前は頭を狙ったけど急所は胸の真ん中かな。うん、真ん中……」
自身に確信させるように何回か呟き、一気に駆け寄る。右脚に鋭い痛みを感じ、顔を苦悶の表情に歪ませながらも目の前にまで近寄り、腰にある刀を抜き、渾身の突きをそれの胸部に向けて放つ。
くたり、と力なく倒れるそれを捨てて、進行方向とは反対の方向に血を拭った布を投げた。
後から来るドスドスという音を背後に、出入り口まで戻ってきた。
「はぁ……はぁ、お爺さん。何でいるの?」
「……ただ野暮用があってな。その帰りに、お前を遠目に観察していただけだ」
べったりと張り付く服の襟をパタパタと扇ぎ、暑苦しそうな少女に少し冷えている手拭いが被せられる。
「あの動きは良かった。勿論、急いて手間取らない事が一番だがな」
嬉しそうに力なく笑う少女はそのままふらりと、倒れた。
「あ、あれ…………?」
「溜まっていた疲れがきたのか。ふむ、今日はよく頑張っていたからな。暫く休むと良い」
少女は掠れゆく視界の中、荷物とともに担ぎ上げられ、老人の歩みによって小刻みに揺れる心地良さから目を閉じた。
今回のタイトルを考えた後、
白狼というより白い子犬だよね、まだ。と思った。




