鞄の中に詰め込んで
ラル「初とーじょー」
水「誰にいっとんの?」
ラル「んー、さあ?」
水「まあええわ。でも、うちの方が派手に登場できんで?」
--この後、
他所の家の机の上に立って、水の頭に拳骨が振り下ろされた--
ゆっさ、ゆっさと精一杯に揺さぶられる少女はぼんやりと目を開けながらも、誘惑に負けかけている。
[おーい、起きなさいって!]
「ん、————あと、もう少し……むぅ」
ふらっと立ち上がり、左右に体を揺らしながらも、着替え始めた。そして目を擦りながら台所まで向かって、顔を洗うついでに軽く食事の支度をする。
野菜や、肉類を適当に取り出し、細かく刻んだものを少女は牛乳を注いだ鍋に入れて、ガスコンロで煮込む。その間に使いきれなさそうな野菜を塩漬けにしておく。
「あのさ、琥珀。一つ言いたいことがあるんだけど」
[何さ? 他に欲しいものがあったら、何でも言いなさいよ!]
任せなさいっ、という風に胸を張る琥珀に、未だに眠気から覚めない少女は開けきらない瞳で見ながら答える。
「今度は私も取り寄せの内容に口出せるのなら、入らせて欲しいんだ」
[良いわよ、作るのは君なんだから。でも、言伝をしてくれれば用意はしとくわよ? って、何でそんな目で見るのよ]
何故か不安そうに見ている少女に琥珀は狼狽える。
「いや、明らかにいい鴨にされてると思うんだけど。だって、この飴とか——」
[もしかして苦手だった? 私は舐めることが出来ないから、誰かに渡すしかないわね……]
残念そうに受け取った飴を片手で弄ぶ琥珀を見ながら、少女はより確信した瞳で。
「……いい鴨にされてるよ」
◇
軽く朝食を摂り、暫くした後に老人が姿を現した。
「朝食はもう食べたか?」
「うん、お爺さんの分もあるよ」
自分の皿を片付け、少女は老人の朝食を用意した。
「今回はいただくが、次からはお前のだけ用意すれば良い。儂らは各々で用意できるからな。その食料はお前のために配達されたものだ。お前が好きなように使え」
老人がスープの最後の一滴を飲み干した後、少女は思い付いたことを口にする。
「じゃあ、私がお爺さんたちの分を用意しても良いよね。琥珀に迷惑かけるけど、大丈夫?」
[それは大丈夫よ。無駄にお小遣いがあるから。まあ、私も君が好きなようにすれば良いと思うよ。ついでに、この老木から優越感を得られるからね!]
「その小遣いは両親から貰ったものだろう……ふん、儂がとやかく言う問題ではないか。それにしても、こっちは一日で随分とわがままになったものだ。この程度ならまだ可愛らしいものだが」
確かに前日と比べて、今の少女は遠慮で隠れた部分が曝け出されているようだ。
「それは最初何も分からなかったけど、今は琥珀もお爺さんも優しいって安心できるから」
少し成長しても、無垢なまま笑った。
◇
「今日は儂が付いていくが、夜になる前にはお前らだけで生き抜け。今回はその翌日にはここに戻ってもらうが、回数を追うごとにその時間は長くしていく。お前がまず鍛えるべきは死地でも万全の状態で挑むようにすることだ。就寝中も、決して油断してはならん」
少女は真剣な面持ちで頷いた。
「まず考えるべきは生きること。怯えなぞを感じる暇もなく対処に移行しろ」
「うん、分かった」
用意した食料、天幕を背嚢に入れて、予備の武器を横に差し込む。
そして最後に刀を差して、いつでも抜刀できるようにしながら、少女は背嚢から顔を出す人形とともに老人の跡を追った。
ちゃんと、伽藍の分は用意されてるから
読者諸君は安心するんだ。
誰も気にしてないだろうけど、補足でした。




