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無明雑談

 水「(そっと近づいて)わっ!」

 影「…ッ!」

 水「あははっ、ほんま影はビビりやなぁ」

 影(無言で冷えた手を水の背後に回す)

 水「その手には引っ掛から--冷たっ!」

----魔の手からは逃れられなかった----

 「さて、語るには何処から始めるか。

 子連れの浮浪が定住の地を求めて、この場所にやって来た。浮浪はこの地に住む神との間に契約を結び、それから暫く邪なる者たちを打ち払ってきた。

 その中で、浮浪の連れた童はすくすくと成長し、やがて一端の戦士として浮浪に認められた。名は楽水、その意味は水を楽しむと言う通り、じゃじゃ馬でお転婆な娘だった」

 流暢な語り出しに少女は自然と耳を傾ける。


 「ある日、浮浪とその娘のもとにある凶報が耳に入る。それは、『堕落せらるる数多もの天災に備えよ』という簡素なものであったが、その報は幾重の死線を超えてきた浮浪をとってしても、戦慄するに余りあるものであった」

 少しずつ周囲の空気が重くなってゆく。


 「されど、浮浪が退く訳にはいかない。契約のみならず、浮浪の背後には娘もいるのだから。例え一人前と認めても、誰がむざむざと娘を死地に連れて行こう。浮浪は娘にある仕事を任せた。それは、『地に住まう人々を近くで守れ』と、いうものであった」

 砂嵐の音が掻き消えて、その一言の迫力に少女の指が強く握られる。


 「それで……?」

 「……浮浪は単騎で屍の山を登り上げるが、その身には数多くの血飛沫が纏わりつき、重くなった体は頂きの手前で止まってしまった。今もなお、その足は宙に浮き、その一歩を踏み出せずにいる」

 老人は目を瞑り、それで一段落だと語りを辞めた。


 「浮浪の娘はどうなったの?」

 続きはないのだと気付き、少女は疑問に思った事を尋ねた。

 「さて、な。先に言っておくが、これ以上は今のところ話す気はないぞ。夜も更けた、さっさと寝ておけ」

 話の良いところで切り上げられたせいで、少し不満そうに少女は老人が去るのを見ていた。

 


 ◇


 少女はぽつん、と部屋に取り残され、暫く話が気になり寝れなくなった後、口をすすいで部屋に戻った。

 「良かった、まだ眠ってるみたいで」

 目を閉じたままの人形に寄り添い、また瞳を閉じれば何事もなく、朝まで起きることはなかった。

 ふと、作者が気付いたことなんだけど、

 まだ一日も作中で経ってないな。

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