第8話
「ただいま」
「おかえりなさいカラクリさん…ってその体どうしたんですか?!」
家に着くやいなやハーサムがビックリして腰を抜かしてしまう。それもそのはず。前まではスリムでスタイリッシュな体をしていたのに、今では背丈は伸び、どちらかというとガッチリ系の体だからだ。
“搭載機能”によって鈍器腕獣から得たものは多い。鋼のような皮膚に豊富な筋繊維、どれも一級品ばかりだ。
そんな中でもヤツの異様に発達した腕に関しては、カラクリの進化に少なからず影響を及ぼしている。
「ゴツいですね…特にその腕…もしかして種族進化ですか?」
「ああ、それより他のみんなは?」
「まだ戻って来て無いですね、カラクリさんが一番乗りです」
二人は森の中でどんな事があったのかを談笑していると…
外からガシャンガシャンといつもの足音が聞こえてくる。その音はいつもと少し違い、異様なまでに大きくテンポが遅い。
ギィィィ…
家の戸が開き入ってきたのはなんと、ボロボロになったビスクとブリキを抱えたカブトであった。
「ビスクとブリキが森の中で倒れていタ。だいぶ無理をしたようダ…」
その見た目の変わり具合からどうやらカブトも種族進化したらしく、話し方も前より流暢になっている。
「カラクリ…これは治るのカ?」
「ああ、動力核は壊されていないからいくらでも治せる。ただ…酷い損傷だ…」
二人とも関節という関節があらぬ方向へと曲がり、胴体には多数の陥没、ブリキに至っては頭の半分がなくなっている。
するとビスクとブリキが、壊れた機械のような不吉な音を立てて起き上がろうとする。
「別に…このくらいの怪我…なんて…大した事ないわよ…」
「ヘマをした…手酷く…やられたよ…」
起き上がるのも精一杯なようだ。
弟にかっこ悪い姿は晒したくないという思いから気丈に振る舞うが、さすがにダメージが大きすぎる。
「俺もこれくらいボロボロにやられたが、蒸気が吹き出して気づいたら完治していタ。ビスクもブリキもなんとかモンスターを倒したようだが、どうやら二人にはそれが起こらなかったようダ…」
(種族進化をしたのは俺とカブトだけって事か…さっき解析眼で二人を覗いた時には二人ともレベル10になっていたんだがな。そこら辺に何か違いがあるのか…)
「よし、俺がすぐに治してやるから心配すんな!」
そうしてカラクリは丸二日間研究室に閉じこもり、助手のハーサムとともにゴーレムの修理に没頭した。
一方のカブトは手伝える事も特に無いので、一人で森に行き、モンスターと戦い続けていた…
「“具不退転”」
そう唱えるとカブトの体に鎧が纏った状態で発現する。
これがカブトが種族進化の際に獲得したスキル“具不退転”。スキルレベルに応じて自分専用の装備を具現化できるというものだ。
「“モルグルの刃”」
今度は右手に短剣が発現する。
これはスキル“具不退転”の副次効果で、先述と同様に、スキルレベルに応じた性能の武器を具現化できるというもの。
カブトはこれまでずっと素手素足のみで戦ってきたが、このスキルのおかげで武器の使用が可能となり、狩りのスピードが格段に上昇した。
もともと持っていたスキル“耐久”と“金剛化”との組み合わせも完璧で、こと近接戦闘において四兄弟の中で無類の強さを誇る。
向かってくるモンスターを躱し、その短剣で胴体に小さな傷をつける。
するとモンスターは痙攣し始め泡を吹き倒れてしまう。
格下の敵であれば斬撃に状態異常を付与する、という“モルグルの刃”の特殊効果が発動したようだ。
「種族進化したおかげでかなり強くなっタ…」
カブトはどこか悲しげな様子。
「カラクリはなんであんなに多才なんダ…?なんであんな色んな事に精通していル…?」
長男としての責務を全うできていないのではないか、という不安がよぎる。
今思い返してみると、自分は末弟のカラクリに全てを任せ、言われた通りに仕事をこなしてきただけという事に気づく。
「こんな兄でいいのカ…?」
「俺には何ができル…?」
長男とは、弟と妹の手本となる存在。頼れる存在でなければならない。そういった固定観念がカブトを更に追い詰める。
せめてカラクリの役に立とうと、倒したモンスターをありったけ持ち帰るカブト。
モンスターを引きずりながら帰路につく背中は、その巨体からは考えられない程に小さく感じられるものであった。