第6話
(マズい…動力核が損傷した…)
動力核、それは人で言うところの心臓にあたるゴーレムにとって最も重要なパーツ器官。
鈍器腕獣のブローで動力核が傷つき、魔力が漏れ出している。このままでは魔力が体内をうまく循環できず、いずれ枯渇してしまう。
(大丈夫だ。『人形神の加護』のスキル“自己修復機能”に全力を注げばこの程度の損傷…)
「おわっ!」
そんな事などお構いなしに追撃してくる鈍器腕獣。スキルの行使に集中させてもらえない。
(クソ…容赦がないな、まるでカブトみたいだ)
一方の鈍器腕獣も想像以上にカラクリが粘るため徐々に疲労が見え始めている。そのため動きに雑さが増え、生じる隙も大きくなっていく。
両者は改めて向かい合う。
(短期決戦…だな)
動力核から魔力が全て漏れ出る前に倒したいカラクリ、疲れたから早く仕留めたい鈍器腕獣…
お互いの意向が合致した瞬間である。そして数刻の間…
「機能解放」
「ガァァァ!!」
カラクリは今までスキル“搭載機能”で取り込んできた全てのモンスターの特性を実装する。機械的な体から一転、非常に生物的な特徴を残したグロテスクな姿へと変貌を遂げる。まさにキメラのような見た目だ。
一方の鈍器腕獣もスキル“八極拳”を解放する。異様に発達した二本腕だけでも厄介だったのに、それが八本に増えている。手数もパワーも上昇させられる、単純ではあるが実に強力なスキルだ。
両者は雄叫びを上げながら正面から打ち合う。
速さと狡猾さで勝るカラクリと、手数とパワーで勝る鈍器腕獣。
お互いがお互いの長所を活かした、一進一退の戦いが繰り広げられる。
大振りのパンチは避けられるだけと理解した鈍器腕獣は戦い方を変え、とにかくカラクリの動きを止めるためにその大きな手の平で掴もうとする。
一方のカラクリも今までの機械じみた精巧な攻防から一転。四足歩行に近い野生じみた動きで相手を翻弄する。
隙を見つけては鋭利な爪による攻撃で、少しずつではあるがダメージを与え続ける事は忘れていない。
(だが浅い…これでは決定打にはなり得ない…)
全力を尽くしてもジリ貧が続いている事にさすがに焦りを感じるカラクリ。
(マズイな…魔力漏出量が半分を超えた。激しく動いているせいか損傷具合も酷くなって、漏れ出る量がどんどん増えている…)
鈍器腕獣もそろそろ限界が近い。
両者ともに言葉は交わしていないが、お互いが次の攻撃で最期になるという事を感じ取る。
「ゴァァァア!!!」
最初に動いたのは鈍器腕獣。
八本の剛腕をバズーカの如く勢いで一斉に打ち出す。正真正銘の最期の力を振り絞って放たれる渾身の技だ。
鈍器腕獣もカラクリが正面から迎え撃つだろうという予測がついていたからこその攻撃である。
そしてカラクリも避けようとせずそこに突っ立っている。
しかし…
怒涛の八本腕は空を切る。
鈍器腕獣も先程までそこにいたカラクリの姿を捉えきれず見失う。
次の瞬間、
鈍器腕獣の視界が鈍い音とともに直角に曲がる。
否。
視界が曲がったのではない。首を折られたのだ。
鈍器腕獣の首に勢いよく脚が巻き付き、首に手をかけるカラクリに気づいたのは、首を折られた後の事である。
ズシンと大きな音を立ててその巨体はようやく倒れ伏す。
「勝った…」
見るとカラクリは最期の攻撃の余波を食らい、何重にも張ったモンスターたちの毛皮はボロ雑巾のようになり、搭載した彼らの筋繊維も千切れ、あちらこちらから出血している。痛覚を持たないゴーレムで良かったと心の底から思う。
しかしあそこまで引き付けなければ、あれ程の隙は生まれなかった。
(必要な犠牲であったと妥協しよう…)
「いやーそれにしても、強敵だったな。森のモンスターヤバいな」
すると突然、カラクリの体が蒸気に包まれ始める。
「なんだ?!」