第5話
ここは旧サンストーン帝国領のサード島という島。金や銀、それに珍しい鉱物や素材が豊富に採れるという理由から、皇帝がえらく重宝していたそうだ。サンストーン帝国の鉱業を支える基盤だったとか…
「「ここって島だったの?」」
二人にとって割と衝撃的な事実。
ブリキはサンストーン帝国領の巨大さに、カラクリはアインツェル·ゲンガー時代からの認識が間違っていた事に対して驚いている。
(まさかこの広大な土地が、本土ではなくただの離島に過ぎないだなんて…)
(まさかサンストーン帝国の本土に辿り着いたと思っていたら、ただの離島だったなんて…)
二人はおもむろに何かを考えている。
その様子を不思議そうに見つめるハーサム。
しばらく経ち、ようやく思考がまとまったのか、カラクリが顔を上げる。
「ふぅ…かなり驚かされる内容ばかりだったが、ブリキ、もう聞きたい事は無いのか?」
「んー…そーだね、今のところはこんぐらいかな〜」
ここで、ハーサムはこれから自分に起こる事を予想、というか察してしまう。
(マズい…!これはもうオイラは用済みって事じゃないか?!間違いなく…殺される!!)
するとカラクリが近くに寄ってくる。
(終わった…オイラ…今度こそ完全にご臨終だ…)
ハーサムに括り付けられてい縄が解かれる。
「よし、じゃあもう帰っていいぞ」
ん?
「聞こえなかったか?もう帰っていいぞ」
まさかの見逃し…?!予想外すぎる。
「え、あ、いや…殺さないんですか?」
「なんだ、殺してもらいたいのか?」
「いやいや!!なんていうか…その、意外で…」
「別に大した理由は無いさ。ただお前は情報をくれただろ?その対価だとでも思ってくれ。それにお前を殺して得られる経験値なんて、たかが知れてるしな」
一言余計だよ…
「ほら、さっさと…」
「あの!オイラを…ここで働かせてもらえませんか…」
ということで、頼みに頼みこんだ結果、ここで働く事になりました。
賃金なし、基本あの四人の言いなり、自給自足、労働時間は一日中など、雇用条件は最悪。
「さすがに酷すぎない?!いや、まあ無理を通したのはオイラだから仕方ないのかもしれないけどさ、さすがにやりすぎだと思う!」
辛うじて助かっているのが、あの四人は基本一日中狩りに出ているから、掃除ぐらいしか仕事がないということ。
食事、排泄、睡眠という生理現象も必要ないそうで、ある意味救われている。
彼らの生態は謎だらけ。
「本当にどういう仕組みで生きてんだ?アイツら」
愚痴を叩きながらも、薄汚い地下研究室の掃除を淡々とこなすハーサム。
酷い待遇を受けながらも、なんだかんだ彼らには感謝している。
「…」
彼らは今もモンスター狩りをしているのだろうか…?
「森のモンスターは街のモンスターと一味も二味も違うからなぁ、大丈夫かなぁ?」
「本当に、ご苦労さまです」
その顔は拾ってもらった恩義からか、それとも昼夜問わず戦いに明け暮れる彼らに対する呆れからか、その真意は分からないが、なんとも言えない温かい微笑に包まれていた。
―――場面は変わり、ここからはカラクリ視点
「なるほど…そういうことだったのか」
そう静かに呟くカラクリ。
彼はいつもの如くモンスターと戦っているのだが、少し違うのは街から出て森の中で戦っているということ。
(街のモンスターの歯ごたえの無さには違和感を覚えていたけど…なるほど、森の過酷な生存競争に勝ち残る事ができなかった弱虫がアイツらだったってわけか…!)
必死に相手の攻撃を避けながら、起死回生の一撃を入れるために全力で隙を伺う。
“解析眼”
名前:―― Lv.14
種族:鈍器腕獣(通常種)
魔法:「強化魔法Lv.18」
スキル:「八極拳Lv.25」
(Lv.14か…俺が今Lv.8だから…差は歴然だな。それに魔法まで使うのかよ…)
鈍器腕獣はいわゆる大型の人型モンスターで、身長は三メートルを越す。その鍛え抜かれた剛腕を思いのままに振り回している。
(攻撃が不規則すぎて予測ができない…ッ!)
“強化学習”を駆使しても相手の動きを捕捉する事ができない。これは相手が何も考えずに、ただ無闇矢鱈に攻撃しているという事を指す。
「クソッ…」
一旦距離を取るカラクリ。
「土の槍」
スキル“土属性操作”によって生み出された巨大な槍。確実に相手を貫くという思いからか、とびきり鋭く大きな槍を一本生成する。
土の槍が鈍器腕獣に向かって飛んでいく。しかし、
「ガァア!!」
鈍器腕獣は土の槍を正面から殴り、粉砕してしまう。
「まじかよ…」
驚きのあまり動きが固まってしまうカラクリ。鈍器腕獣はその隙を逃さない。
その巨体に似合わない俊敏性で一瞬にして距離を詰め、カラクリの胸に重めのブローをお見舞いする。
もの凄い勢いでカラクリは十メートルくらい吹き飛ばされてしまう。