第17話
突進を仕掛ける棘甲羅亀。尻尾を含めれば全長六メートルはくだらない巨体がハーサムに襲いかかる。
亀の割に移動速度がかなり速い。
しかしハーサムはそれを軽快に避ける。
「そんな体当たり寝起きでも当たらねぇよ」
棘甲羅亀は急ブレーキを掛け、次に刺々しい尻尾を振り回す。
しかしそれも軽く躱してしまう。
(ほお!アイツ結構すばしっこいな!いや、それよりもなんか様子が…)
棘甲羅亀の次の突進も当然のように躱す。そしてカラクリは気付く。
(亀の脚に傷が…アイツの爪!!)
見るとハーサムの両手がまるで別の生き物にでもなったように変貌を遂げている。
ハーサムのスキル“刳る竜爪”による効果だ。
(いやドラゴンになるのが夢だったとか言ってたけど、もう夢叶ったようなもんだろソレ)
ハーサムの手首から先にかけてドラゴンの鱗と爪が生えている。正直めちゃくちゃカッコいい。
「ハッハハハハ!!!」
狂気的な笑いと共に棘甲羅亀を切り裂いていくハーサム。まさにえぐるような切り傷で痛々しい。
(怖ッ…キャラ変わりすぎだろアイツ…あんなサディスティックな奴だったっけ…?)
すると棘甲羅亀が大きな雄叫びを上げながら暴れまわる。
「グォォォォオオオー!!」
体についた棘と尻尾を振り回し、なんとかハーサムに距離を取らせる。
「亀野郎…急にバカみてぇに騒ぎやがって」
“追尾棘”
すると棘甲羅亀の甲羅に生えていた大小無数の棘が一斉に飛び出す。七割はハーサムに、残りの三割はカラクリに飛んでいく。
(俺にも来てるじゃねぇか)
ハーサムは全方位から飛んでくる棘を全てを切り裂く。
「チッ!」
想像以上に時間がかかってしまいカラクリの救援に間に合いそうもない。
しかしカラクリは仁王立ちの姿勢を崩そうとしない。
(カラクリさんもしかして寝てんのか?)
「カラクリさん!危ないッ!!」
カガガガガガガッ!!!
直撃したが平然と立っている。
「だ、大丈夫ッスか…?」
「ああ、問題ない」
「さ、さすがッス…」
カラクリは全身が魔鉄でできている。
魔鉄とは魔力を通すと強度が跳ね上がる性質を持った希少な鉄である。そしてゴーレムの性質上、常に体の中で魔力が循環している。つまりカラクリは防御力全開の状態を常に維持できるのだー!
「今までなんかゴメンな、色々溜め込んでたんだな」
「?」
満身創痍の棘甲羅亀は、二人が油断し、更に一直線上に並んだこの瞬間を見逃さない。
口を大きく開け、水球を作り出す。
そこからまるでレーザー砲の如く、水属性魔法による超高圧水流を二人に向けて発射する。
談笑していたハーサムはもの凄い形相でグルンと体の向きを変え、向かってくる超高圧水流を思いっきり切り裂く。
水の大砲は真っ二つに別れ、二人の両側にあった木々は薙ぎ倒される。
既に満身創痍であった棘甲羅亀。大技を繰り出し、隙だらけの瞬間を今度はハーサムは逃さない。
全速力で駆け出し、自慢の爪で棘甲羅亀の頭を縦に切り裂く。
棘甲羅亀は白目をむきその場に倒れ、決着が着く。
「ふぅ…」
我ながらカッコよく決まったなと思うハーサム。
「どうですカラクリさん、オイラの…」
カラクリは戦いよりも落ちている棘甲羅亀の棘に興味を惹かれてしまい、無我夢中で集め、体内に放り込んでいる。
(これは良い素材だな、しかもこんなにたくさん…!)
「見てましたか?」
「え、なに?」
「いや、なんでもないです」
棘甲羅亀の死骸も取り込み、更に歩を進める二人。




