第13話
「掘削対決による決着…これは絶対、いいね?」
ネム婆さんがボーレンに釘を打つ。
「は、はい…」
半ば説教みたいになっている。そこにカラクリがやってくる。
「いい試合だったぞ」
「はは、ありがとうございます。ですが負けてしまいました…何なりとお申し付け下さい」
「そうだな…じゃあ父と息子二人でよく話し合うこと!それが命令だ」
「「え?」」
ハーサムもボーレンも二人して驚く。
面と向かって話し合った事など無い親子。母は既に他界してしまい、男手一つで育ててきた。頼れる兄弟もいない。
これまで息子に言ってきた事といえば、洞窟の民としての誇りだとか使命だとか、より良い掘削のやり方、そんな事ばっかだった。今になって気づく。親子らしい会話などこれっぽっちもしてこなかったという事に。
「…父さん、まずは黙って出ていってごめんなさい」
「いや、俺もすまなかった。才能のあるお前に俺の思想を全部ぶつけてしまっていた。お前の気持ちを全部無視して…」
「うん、でも今日の父さんは少しカッコよかったよ」
「…!」
「それでもやっぱりオイラはこの洞窟を出ていく。オイラは外の世界を自由に探検してみたい…洞窟の外がどれだけ広いかを知ってしまったから!」
「そうか…」
少し寂しそうな顔のボーレン。
「でもちょうど今目標が一つできたんだ」
「目標?」
「オイラも父さんみたいに強くなるよ。世界で一番強いゴブリンになって世界中を見返してやるんだ!」
「ふっ、最強のゴブリン…か、いつまでも弱小種族のレッテルは割に合わんしな…」
何かを考えているボーレン。
「父さん?」
「ハーサム、父さんも目指すぞ」
「え?」
「最強のゴブリンってやつを」
「ええー?!」
どうやら仲直りできたみたいだ。するとボーレンがこちらを向いて頭を下げる。
「カラクリ殿、今日は本当にありがとうございました。今後とも息子を頼みます」
ハーサムも頭を下げる。
「ハーサム、君は今日限りで解雇だ」
「えっ!な、なんでですかー!」
「今まで君は俺の元で働く手下だった。でも今から最強のゴブリンを目指すんだろ?強さを求め切磋琢磨し合う仲間を俺は手下とは思わない。」
「ハーサム、君は今から正式に俺たちの仲間だ」
カラクリ、ビスク、ブリキ、カブトの四人はハーサムを快く迎え入れる。
「カラクリさん…それにしてもその手下への扱いは酷かったですけどね」
「う、うるさい!」
その様子を温かく見守るボーレンとネム婆さん。
「こりゃこの洞窟にも改革が必要じゃな」
「ですね」
それからしばらくは自由行動となった。
ビスクは持ち前の明るさを武器にゴブリンの女性陣を虜にし、今では付き従えているくらいだ。
ブリキはその知識欲から博識そうな老人に片っ端から声をかけては知識を盗んでいく。
カブトは掘削対決を経て男女問わず多くのファンを作っていた。聞いた話によると、この洞窟内では掘削力が高ければ高いほど、尊敬されモテるそうだ。
一方カラクリはハーサム、ボーレン、ネム婆さんと何やら話し合いをしている。
「好き好んで洞窟で暮らしているというのなら文句は無い。じゃがこの老いぼれを含め、モンスターを必要以上に恐れ仕方なしにこんな薄暗い生活を余儀なくされているゴブリンは思いの外多い。」
「それを洞窟の民の誇りと言って正当性を持たせていたってことか?」
「そうですね、ですよね父さん」
「う…耳が痛い話です」
「まあでも確かに森は恐ろしい場所だ。油断をすれば弱者強者関係なく寝首を掻かれる。でも今日のボーレンの掘削を見て、ゴブリンという種族は決して弱くないという事が分かった。ただ、自分たちを極端に過小評価し、強くなろうとする意識が低いだけ。」
少し照れるボーレン。
「この世に生を受けると同時に与えられるスキル。種族的に非力でも可能性は無限大だ。あとはちょっとの勇気と冒険心があればなんとかなる…」
ハーサムなんかはこれを聞いて、なんとかならねぇよ!と大きな声でツッコミたかったが仕方なく自制。
「あ、そういえばカラクリ殿、貴殿の掘削力も見せて頂いてよろしいでしょうか?その発達した両腕をどのように使うのかとても気になります」
「別に構わないが…腕は使わないぞ」
“土属性操作”
ボーレンの部屋の外壁が一瞬にして崩れ、部屋の広さは単純に二倍となる。
何が起こったか理解できていないボーレンとネム婆さん。ハーサムはカラクリ本人が掘削対決に出ない時点でなんとなく予想はついていたため、そこまで驚かない。
(やっぱこうなるよな…そりゃ出なくて正解だわ)
ただ唯一分かるのは、目の前にいる人物は自分たちとは次元の異なる存在であるという事。
ボーレンとネム婆さんは椅子から崩れ落ち、流れるように頭を垂れる。
「洞窟の神…」
「は?!」




