第12話
「この神聖な洞窟は我らの先祖が切り開いたいわば聖域!我ら洞窟の民は洞窟に生まれ洞窟で死ぬことに誇りを持っている!それをよそ者がバカにするな!」
「バカにはしてねぇよ。ただそういう凝り固まった考え方をしてるからハーサムは逃げてきたんじゃねぇのかな〜?」
「なんだと?!貴様…ッ」
「だいたい陰気臭いんだよここ、ずーっとこんな場所にいたら頭おかしくなりそうだ」
「ぐぬぬ…」
最初はハーサムを巡っての軽い痴話喧嘩だったのだが、今では言葉による戦争へと発展してしまった。
「父さんもカラクリさんも、そこら辺にしときましょう…」
「「お前は黙ってろ!」」
激しく睨み合う両者。
「カラクリがここまで熱くなるのは初めてダナ…」
「確かに」
「そうね」
するとドアが開き何者かが入ってくる。
「双方やめんかッ!!」
腰の曲がった老婆の気合いの入った喝だ。
「ネム婆さん…」
「口喧嘩ではいつになっても解決せん。だからここはこの洞窟における絶対のルール、掘削対決をしなはれ」
「掘削対決?」
―――場面は変わり大広間。
「さあ皆々様!熱狂の準備はできていらっしゃるでしょうか!」
オオオォォォォォ!!!
広い空間へと連れてこられたかと思いきや、そこには全てのゴブリンが集まっていた。数十年ぶりの掘削対決に大いに盛り上がっている。
ネム婆さんによると、この掘削対決というのは文字通り制限時間内にどれだけ掘削できるかを競う神聖な競技だとか。
負けた方は勝った方の言うことを聞く、という条件の男と男のガチンコ勝負。
「お主ら四人の中で最も掘削力の高い戦士を出場させよ」
ネム婆さんにそう言われたので…
「さあいよいよ対決の時だー!今回はスペシャルなゲストがいるからお前ら盛り上がっていけよー!!」
オオオォォォォォ!!!
大きな歓声…そろっと始まるようだ。
すると大広間の松明の火が全て消える。何事かと思いきや出場者だけを照らす一本の松明が光る。
「今日洞窟中を震撼させた謎の四人衆の一人!無機質、それでいて秘める想いは誰よりもアツい!力技なら随一!その名も…カブトー!!!」
一際大きな歓声。
そしてまさかのカラクリは出場しないという…まあなんというか、さすがに自重しないといけないと思ったからだ。
「対するは我らがリーダー!他を圧倒する掘削力!こと掘削において追随する者なし!その名も…ボーーーーレーーン!!!」
先程よりも更に大きな歓声。やっぱり期待度が違う。
「カブト殿、掘削の経験は?」
「もちろんナイ」
「それでは少々私の方が有利かもしれません」
「それはどうだろうナ」
両者はただただ壁を見つめる。これから自分が掘り進める壁だ。
「それでは準備の方はよろしいでしょうか!」
両者は頷く。
「それでは用意…始め!!」
始めの合図と共に二人はスキルを使用する。
「“金剛化”」
「“鑿つ籠手”」
カブトは拳だけ“金剛化”させる。
対してボーレンはいつの間にかガントレットを装着している。どうやら彼のスキルによって生み出された特殊武器のようだ。
そして両者ともに岩盤はひたすら殴りまくる。
観客は二人の掘削方法がまるで同じで、かつ、掘削能力が均衡しているため大盛り上がりだ。
しかしボーレンは驚きを通り越して焦りを感じていた。
(これが素人の動きか?!殴り方も構えもメチャクチャだ…なのにどんどんスピードが上がっていく…!そんな殴り方では手を痛めてしまうぞ?!)
対するカブトも横目でボーレンの掘削を見ながら学習していた。
(ナルホド…確かにパワーとタフネスは俺に劣ル。だがそれを補って余りある技量と経験…学べる事は多そうダナ。)
開始から一分もすると両者は掘りすぎてお互いに見えなくなる。ここからは己との戦いだ。
(どう殴っていたカ…確か腰の使い方が俺と違ってイタ。左足を前に踏み込まセ、身体を捻ることで腰にタメを作リ…そして真っ直ぐ拳を出ス!)
すると今まで経験してきた中で最もパワーの乗ったパンチが繰り出す。
「オオ!明らかに重みが違ウ!!」
そこからのカブトはフルスロットルだ。
(カブト殿…先程までとは明らかに音が違う。目で見て盗んだな…!)
そこからはまさに熾烈だ。
制限時間はたったの五分。半分が過ぎた頃にはもう観客席から二人の姿は見えなくなってしまっていた。
二人の雄叫びと激しい掘削音が会場を支配する。
「そこまで!試合終了です!!」
あっという間の五分だった。
掘った穴からボロボロの両者が出てくる。
「お疲れカブト」
「凄かったわ」
「何か学べる事はあったか?」
「アア!」
自信満々に頷くカブト。これでまた一つ強くなれたと確信している。
少しの休憩の後、計測係が計測し終え結果発表に移る。
「それでは結果発表です!カブト選手の記録19.4メートル、ボーレン選手の記録18.7メートル!今回の掘削対決…勝者カブト選手ー!!」
波乱の結果にみんな大興奮だ。




