第8話「女神さまは楽しみたい」
ついに、週末がやってきた。
あの数学の課題の一件以降、特に何も無く五条さんと会話すらしていない。
それでも、目が合えばふっと微笑んでくれるし、メッセージのやり取りは一日一往復程度ではあるものの続いていた。
相変らず学校ではクールで無表情だし、その間も呼び出されて告白されては辛口を発揮しているようだ。
でも毎日やり取りするメッセージでは、その事には一切触れられず他愛の無い内容しか送り合わないのだが、俺は五条さん自身週に何度か告白される今をどう思っているのか少し気になっていた。
まぁただこれは完全なる興味本位でしかないし、この話を自分から切り出す事はないだろう。
だからもし、五条さんから何か話があればその時は応えてあげられたらなと思う。
――でも、その中から本当に気の合う人と知り合ったりしたら、付き合っちゃったりするのかな
そう思うと、何故かは分からないけど胸にチクりと棘が刺さった気がした。
俺は、五条さんの事をどう思っているんだろう……そんな事を考えながら、待ち合わせ場所へと向かうのであった。
◇
「わっ!」
「うぉ!?ビックリした!!」
待ち合わせ場所である、この町一番の繁華街にある駅前で五条さんが来るのを待っていると、突然目の前に五条さんが現れた。
「ごめんね、待った?」
「――いや、今来たところ」
「あはは、なんかよくあるやり取りだね!」
そう言って楽しそうに微笑む五条さんは、今日も朝から全開で可愛かった。
まぁ本当に今さっき来た所なのだが。
ちなみに今日も五条さんは、帽子に眼鏡、それからカラーコンタクトで黒目になっていた。
これなら確かにぱっと見で五条さんだと周囲にバレる事は無さそうだが、五条さんだと分からなくても今一緒にいるのが美少女である事には変わりが無かった。
「それじゃ、行きましょ!」
そう言うと五条さんは、ご機嫌な様子で歩き出した。
だから俺は、そんな五条さんの後ろについて歩く。
なんとなくだが、隣を歩くのは違うというか恥ずかしいというか、五条さんの隣は歩けないでいた。
すると、前を歩く五条さんがくるりとこちらを振り返ると、不満そうに頬っぺたをぷっくりと膨らませてきた。
「何で後ろ歩くの!」
「え?い、いや、隣は流石に……」
「一緒に後ろ歩いてる方が変だよ!もうっ!」
そう言って五条さんは、すっと俺の隣に並んだ。
そして俺の服の裾をちょこんと摘まむと、「行くよ」と言ってまた歩き出した。
こうして五条さんに連行されながら俺は、今日の目的地へと向かうのであった。
◇
「わぁ!ずっと楽しみにしていたのっ!」
「そっか」
五条さんとやってきたのは、映画館だった。
どうやら五条さんの好きなシリーズが今上映されているとの事で、今日はそれに付き合う事になっていたのだ。
元々は俺に借りを返すためだったのだが、結局特に趣味とか無い俺はこうして一緒に映画を奢ってもらう形に落ち着いた。
まぁ五条さんの観たい映画を観る事で、俺としても奢って貰う申し訳なさが薄まるからいいかなと思ったのだが、いざ現地に来てみるとあの五条さんに奢って貰うという今の状況のおかしさに気が付いた。
「さ、チケットも買ったし行きましょ!」
しかし当の本人は今日も元気いっぱいで、「やっぱりポップコーンはマストよねっ!」と販売の列に並んでいた。
どうやら気にしているのは俺だけのようで、そんな五条さんを見ていると俺も考え過ぎかなと今を楽しむ事にした。
「田中くんは、どうする?」
「ん?じゃあ俺もポップコーン買おうかな」
「じゃあ、大きいのを一緒に食べましょう!ご馳走するわっ!」
そう言って五条さんは、一番大きいポップコーンを注文してくれた。
本当は塩味が良いのだが、大きいキャラメルポップコーンを嬉しそうに抱える五条さんの姿を見ていたら何も言えなかった。
◇
「最高だったわね!」
映画を観終わった後、俺達は喫茶店でお昼がてらさっき観た映画の感想会をする事にした。
五条さんは観終わってからもずっとハイテンションで、凄く楽しそうにしている。
確かに今日観た映画はアクションもので中々迫力があり、初見の俺でもかなり楽しめた。
「うん、ラストのシーンはハラハラさせられたよ」
「うんうんっ!凄かったわよね!こう、ズバーンってなって、シュバーンって!」
力説する五条さん。
正直擬音だらけでよく分からないが、凄く楽しめた事だけは伝わってきた。
「お待たせいたしました、こちらがAランチで、こちらがBランチです」
そんな会話をしていると、頼んでいたランチセットが届いた。
ちなみに俺はAランチのエビフライ定食で、五条さんはBランチのカレーセットを頼んだ。
「五条さん、本当にカレー好きなんだね」
「ええ、カレーがあればカレーを選ぶ。それが五条セレナの原動力よ!」
よく分からないけど、とりあえず脳死でカレーを選ぶという事だろう。
五条さんはカレーをスプーンで掬うと、うっとりした顔をしながら美味しそうに食べていた。
ここの喫茶店のカレーはその見た目からオーソドックスな欧風カレーで、うちのカレーとは根本的に違うのだが、それでも美味しそうに食べる五条さんを見ていると何だか少し寂しく感じられた。
「うーん、美味しいけど、やっぱり田中カレーの方が美味しいわね」
「え?そ、そうかな」
「うん!私は田中くんの作ってくれたカレーの方が好きよ!毎日だって食べたいぐらい!」
ニッと笑って、無邪気に微笑む五条さん。
俺はその言葉が嬉しくて堪らなかった。
「そ、そっか、じゃあまた、作ろうか?」
「え、いいの!?」
「う、うん。そう言って貰えるのはなんて言うか、嬉しいからさ」
「じゃあ、今日がいいわっ!」
「え、今日!?」
「ええ!善とカレーは急ぐべきよっ!」
期待に満ち溢れた表情を浮かべる五条さん。
こんな顔をされては、俺も断るわけにはいかなかった。
「でも、連続でカレーになっちゃうよ?」
「へーきよ!三日続いてもおかわりできる自信があるわっ!」
えっへん!と胸を張る五条さん。どうやら俺の杞憂だったようだ。
こうして五条さんのカレー愛を再確認できた俺は、今日は予定も無いしこのあとまたカレーを作ってあげる事になったのであった。
映画デート?のあとは、またカレーを作る事になりました。
とってもスパイスに溢れたラブコメです。
続きます!
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