第6話「女神さまは交換したい」
カレーを食べ終えた俺は、食事のお礼にと最後に洗い物を手伝わせて貰った。
五条さんは別に大丈夫だよと言ってくれたが、一人暮らしの女の子の家で食事までさせて貰ったのだから、ここは俺も譲るわけにはいかなかった。
その結果、洗い物自体はさせて貰ったのだが、その間ずっと五条さんは楽しそうに洗い物をする俺を姿を隣で眺めてきたのであった。
こうして洗い物を終えた俺は、時計を見るともういい時間だしそのまま帰宅する事にした。
「あ、田中くん待って」
玄関で靴を履く俺に、何かを思い出したように五条さんが声をかけてきた。
そして一度部屋へと戻って帰ってきた五条さんのその手には、スマホが握られていた。
「連絡先交換しよっ!」
「連絡先?いいけど、むしろいいの?」
「うん、私ほとんど人に連絡先は教えた事無いけど、田中くんは別だから」
「別?」
「うん、だって私のお師匠様だものっ!」
そう言って微笑む五条さんの姿に、俺は帰り際だというのに忘れていたドキドキがぶり返してきた。
カレーによるバフが切れてしまった今の俺には、五条さんのその無垢な微笑み一つでこんなにもドキドキさせられてしまうのであった。
「――そ、そっか。じゃあ、交換しようか」
「うんっ!」
こうして俺は、帰る前に五条さんと連絡先を交換した。
まさか五条さんの方からそう申し出てくれた事が、俺は内心とても嬉しかった。
もっとも、相手は学校一の美少女であるあの五条さんだ。
俺から連絡先を聞くなんて真似は絶対に出来ないだろうから、そう思うとやっぱり有難いし嬉しかった。
そして帰り道、俺は今日起きた色々な出来事を思い出しながら歩いていた。
五条さんの家はうちからそれ程離れてはおらず、実は割かしご近所さんだった事に今更ながら気が付く。
この辺は別に物価が安いわけでも無いし、今通う高校に通うには少し遠かったりするのだが、どうして五条さんはこの街に引っ越してきたのだろうか。
――あっ、もしかして、いつでもうちのカレーが食べられる距離のところに住みたかったからだったりして
なんて、いくらなんでもそんな理由で家を決める人がいるわけがないよなと一人笑ってみたものの、そもそもこの町へ来た理由がうちのカレーだった事を思い出した俺は、それが本当ならむしろそっちの方が濃厚なんじゃなかろうかと震えた。
そんな、まだまだ底が見えないというか謎多き美少女五条さんの事が気になり過ぎて、気付けば俺の頭の中は五条さんの事でいっぱいになっているのであった。
◇
そして、次の日。
俺はいつも通り登校し教室へ入ると、今日も教室の一番奥の席には既に五条さんの姿があった。
いつも絶対先に登校している五条さんは、今日も今日とて退屈そうに窓の向こうを眺めていた。
窓から差し込む朝日を浴び、吹き込むそよ風にふんわりと髪を靡かせているその姿は、まるで絵画のように美しかった。
そんな、昨日とはまるで別人のような五条さんの姿に思わず見惚れていると、俺の視線に気が付いたのか振り向いた五条さんと目が合ってしまう。
学校では距離を置くんだよなと思った俺は、しまったなとすぐに目を逸らそうと思ったのだが、なんと五条さんは俺にだけ分かるように小さく手を振ってきたのである。
だから俺も、驚きつつも慌てて周りに気付かれないように小さく手を振り返した。
すると、それが嬉しかったのか一度ふっと微笑んだ五条さんは、それからまた窓の向こうを眺め始めたのであった。
そんな、二人だけの秘密のコミュニケーションを取った俺は、胸の奥から一気に込み上げてくるものを感じた。
「おはよう聡。――ん?どうかしたか?」
「おう、おはよう健太。別に何でも無いよ」
「そうか?なんか嬉しそうだけど?」
「ああ、そう見えるなら、ちょっと嬉しい事があったからさ」
どういうことだと、健太は不思議そうに首を傾げる。
しかし、いくら健太でも今はまだその理由は言えない。
それでもいつか、健太や他の皆も五条さんともっと仲良くなれたらいいなと思った。
だって本当の彼女は、クールで辛口な女神様なんかじゃなくて、あんなにもハイテンションで不思議なところで満ち溢れた、魅力溢れる女の子なんだから。
きっとみんな、本当の彼女の事を知れば好きになるに違いない。
でも、だからこそ彼女は周りと距離を置いてるのかと思うと、やっぱりそんな単純な話でもないのかなと俺は頭を悩ませるのであった。
連絡先、ゲットだぜ!
彼女にしか分からない悩みとか、思いがあるのでしょうね。続きます!
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