最終話「女神さまへの想いと、これから」
それからは、休み時間になるとセレナはギャル三人――佐山さん、北村さん、能登さんの三人と仲良くお喋りをするようになっていた。
まだ慣れていないセレナの事を思って、彼女達の方からセレナのもとへと歩みより話しかけてくれる。
そんな光景を見ているだけで、俺は何だか嬉しくなってくる。
「すっかり五条さん、クラスのアイドルだな。女神そのものって感じで」
その光景を一緒に眺める健太は、そんな事を呟く。
「むしろ、あれが本当のセレナなんだけどな」
「マジかぁ、すげーな」
「だろ?」
「いや、お前がな。一体どうやったら、あんな難攻不落の美少女と仲良くなれるんだよ――」
セレナの事かと思えば、どうやら俺の話だったようだ。
どうやってと言われても、俺の実家がカレー屋で、そこにカレーを食べに来ていたセレナが俺の存在に気付いて、それから師匠になってとか言い出して――うん、理由はちゃんとあるけれど、思い返してみると我ながら中々ぶっ飛んでるなと思う。
一言で言えば、カレーのおかげ。
そんな訳の分からない言葉で納得する人、きっとこの世に誰もいないだろう。
でも本当に、何の誇張も抜きにカレーのおかげなのだから我ながら笑えてくる。
すると、そんな事を考えながら眺めている俺の視線に気が付いたセレナが、嬉しそうにこっちに手を振ってくる。
二人きりの時だけ見せていた、無邪気な微笑みを教室内で浮かべているセレナ。
そんな、もう包み隠す事無く自然体でいられているセレナの姿を見ているだけで、俺は何とも言えない喜びが込み上げてくる。
だから俺も、そんなセレナに微笑みながら手を振り返す。
するとセレナは、それが嬉しかったのか更に満面の笑みを浮かべるのであった。
「――ああ、マジで嫉妬で狂いそう」
「正直自分でも、未だに半信半疑だよ」
「だろうな、本来俺達で届くレベルじゃ無いからな。でも、こうなると後が面倒臭そうだな」
「後って?」
「そりゃ、学校一の美少女に彼氏が出来たんだ。さっきの野次馬もそうだが、色々思う人もいるだろうよ」
「ああ、それはそうだな。――でも、もう大丈夫だ」
「大丈夫?何を根拠に?」
「俺は元々、大した容姿でも無ければ力があるわけでもない。だから、そんな所で張り合うだけ無駄な事ぐらいよく分かってる。それでもさ、俺には他の人に絶対に負けないと思えるモノがあるから大丈夫なんだ」
「思えるモノって?」
「――そりゃ勿論、カレーでしょ」
「は?」
「まぁ、色々あるんだよ」
そう言って俺は笑った。
当然健太は、訳が分からないと困惑した表情を浮かべていた。
――俺には、カレーがある
絶対他の人には負けない部分があるとすれば、それはセレナに世界一美味しいカレーを作ってあげられる事だ。
こればっかりは、全国探しても俺より上を行く高校生なんて絶対いないと胸を張って言える。
――でも、それはキッカケに過ぎないんだ
別にそれは、きっとカレーじゃなくてもいいんだ。
他の人に絶対に負けないと思えるその自信が、俺の背中を押してくれているのだから。
キッカケはカレーだけど、仲良くなってからこれまで俺は色んなセレナを隣で見てきた。
教室ではいつも無表情で退屈そうにしていたセレナだけど、二人の時は本当によく笑うし無邪気な女の子そのものであること。
それにカレーが大好きで、いつもあらゆる事にワクワクできる素直な女の子、それがセレナだ。
彼女の魅力は、その優れた容姿だけではない――いや、むしろそれすらも入り口に過ぎないと思える程、彼女という存在は知れば知る程まるで底なしの魅力に溢れているのだ。
だから俺は、そんな彼女のことをこれからもずっと隣で見ていたいんだ。
彼女に相応しい男になるために努力だってするし、守ってあげたいし、食べたいと言えば何時でも美味しいカレーを作ってあげたい。
こんな風に強く願ってしまう程、俺にとってセレナという存在はもう大きくてとても大切なものになっているのであった。
――そして、帰り道。
付き合っている事を公にしているため、もう堂々と二人手を繋ぎながら一緒に下校する。
周囲からの視線は集まるが、セレナはそんな視線なんて全く気にする素振りは見せなった。
そんな事よりも、こうして一緒に歩けている事が嬉しいのかセレナは繋いだ手をブンブンと振りながら、弾むような足取りで隣を歩いていた。
「そういえば、今日行きたいところあるって言ってたよね」
「うふふ、そうよ!どこだと思う?」
「んー?駅前のショッピングモールとか?」
「ブッブー、ハズレでーす」
「なに、教えてよ?」
「それは勿論、田中カレー店よ!だって、今週まだ食べてないもの!」
「ああ、そう言えばそうだったね」
どこかと思えば、うちでカレーを食べたいと言い出すセレナ。
そう言えば今週、すれ違っていた事もあってまだうちにカレーを食べに来ていない事を思い出した。
今日は朝からそれが楽しみで仕方なかったのと意気込むセレナ。
「じゃあ、今日は俺がセレナのために本気のスパイスカレー仕上げちゃおうかな」
「え、聡くんが作ってくれるの!?すっごく嬉しいわ!!」
「俺に出来るのは、そのぐらいだしね」
「――そんな事ないわ。聡くんには、もっと多くの大切なものを受け取っているもの」
笑いながら俺が謙遜すると、セレナは優しく微笑みながら首を振った。
セレナのその言葉は温かくて、そう言ってくれている事が俺はただただ嬉しかった。
「これからも、宜しくね」
「ああ、こちらこそ」
向き合って、微笑み合う二人――。
こうして俺達は、今日も仲良く二人の大好きなカレーの話をしながら一緒に帰るのであった。
クールで辛口な女神さまは、やっぱり辛口がお好きで――それから、実は物凄く甘口で可愛らしい女の子なのでした。
これにて、本作は完結とさせて頂きます。
カレーがキッカケで始まるラブコメという踏み込んだ?題材でしたが、楽しんで頂けたなら嬉しいです。
先輩とか色々ライバル的な人などを出してすったもんだするのを差し込む事も考えましたが、まぁそれも全部野暮だなと思い止めました。
(セレナちゃんが何で一人暮らしをしているのかとかは、まだ色々あったりはしますが…)
とまぁ若干駆け足になったのは否めませんが、ズルズル引っ張って最悪エタるような結果になるよりも、本作では一旦ちゃんと完結まで書き切る事を選びました。
一つの物語を完結させるのは私としても結構寂しさとかありますが、また短編等でこの二人の物語も書けたらなと思います。
以上、ここまで本作読んで頂き本当にありがとうございました。
また他の作品も執筆しておりますので、そちらも楽しんで頂ければ幸いです。




